第24話「終焉、そして…」

十文字(無双)「鬼江さんは隣町へは何度か行ったことありますか?」
鬼江「う〜ん、今回の調査で入り口まで行ったのと、遠い昔に遊びにいったぐらいね。でも本当に昔のことだもの。覚えてないわ。」
ゴロ(サンダーの父)「それがどうかしたのか?」
十文字(無双)「…このまま封鎖するにはもったいない町だと思いました。だから、せめて昔のようにはいかないかもしれませんが安心して暮らせる町に戻したいと思って。昔を知ってる人なら元に戻す方法を知ってるかもしれないと思って。無理でしょうか。」
ゴロ(サンダーの父)「再生か。だが何年かかるかわからないぞ。」
十文字(無双)「出来る限りのことはしたいと思います。それがすべての供養になれば…昔のように列車を通すことだって不可能じゃない。」
道を歩きながら無双は自身に言い聞かせるように語りだした。鬼江はそんな無双の背中をただ見守って後をついて歩いている。
鬼江「…無双ちゃんがやりたいようにしたらいいわ。」
その言葉には呆れ半分、優しさ半分の感情が込められている。無双が来てから何もかもめまぐるしく動いているのだから今更どう動いても驚かない、と鬼江は思っていた。
ゴロ(サンダーの父)「…で、何処から手をつけるつもりだ?」

ゴロの言葉に無双は目に入った空き家の数々を眺め回した。生垣だったと思われる場所はすっかり枯れて、茶色に変色していた。
ゴロ(サンダーの父)「この町はかつて植木職人のメッカでもあった。季節の木々を取り入れながら町に調和する生垣を作ろうと意気込んでいた…。」
十文字(無双)「風船猫フジ…彼に頼んでみましょう。…もう一度緑を戻してくれるように。」
ゴロ(サンダーの父)「奴と接触したのか?」
十文字(無双)「2度ばかり遭遇しました。今思えば、…フジを怒らせこの街を駄目にしたのはこの街に住む人達だったのかもしれません。けれど、フジも気が済んだと思います。」
森を通り抜けた場所には緑がない。町は廃墟と化した寂れた土地になっている。それはフジの花粉がもたらした毒だ。
十文字(無双)「(ポケットにいれた薬草を取り出して)森まで枯らさなかったのは今になってわかったことです。蔡さんに頼まれたことを済ませたらもう一度フジに会いましょう。」
ゴロ(サンダーの父)「蔡に何を頼まれたんだ?」
ゴロの問いには答えず無双ははっきりとした意志で前に足を運んでいた。もう迷いなどなかった。
鬼江「社長、行きましょう。」
ゴロ(サンダーの父)「…あぁ」


1時間後、無双らはあの場所に来ていた。蔡と共にパーフェクトトランスフォームの訓練をした遺跡の中は音もなく静まり返っていた。
鬼江「……ここは一体……」
なんなのさーといきなり叫びだした鬼江の声は崩れた試合会場に吸い込まれていった。
鬼江「陰気でぞわざわしちゃうわ…強烈な場所ね」
十文字(無双)「あまり大声は出さないで下さい。声でさらに崩れます。」
無双は乙女像の近くまでいくと、懐からスコップを取り出し穴を掘り始めた。
鬼江「無双ちゃん、何してるの?」
十文字(無双)「鬼江さんも手伝ってください、……私1人では無理です。」
ゴロ(サンダーの父)「手伝おう」
それまで黙っていたゴロが無双の傍まで屈むと手で穴を掘り始めた。無双は自分のスコップを差し出すがゴロは受け取ろうとはせずただ無言で作業をしている。鬼江は何がなんだかわからずとりあえずスコップの代わりになるものを探し始めた。
鬼江「…男2人でこんな辛気臭い場所でなにやってるんだかって感じだわ。私のつめが痛んじゃう。」

ゴロ(サンダーの父)「そんな長いつけ爪は外したほうが良い…爪で穴を掘るつもりか。」
十文字(無双)「鬼江さんは男には入らないんですか?」
鬼江「まっ、言ってくれるわね!」
ネイルアートで派手に飾った爪にドロを詰め込みたくない鬼江はぷいっと顔を背けて近くに合った角材を持ち出した。
鬼江「そこ、邪魔だからどきなさい!」
びくっと肩を震わせて怒声の方向を振り返ると鬼江が角材を肩に担いでいた。そんな鬼江を苦笑しながら無双がその場を譲ると鬼江は凄まじい勢いで……
鬼江「シンボルストーンの力をみせてやろうじゃない。」
角材を無双達が掘っていた穴の中心につきたてると鬼江は眉間に皺を寄せて「土爆」と叫ぶ。するとその中心の土がまるで天に吸い寄せられるようにみるみるうちになくなっていくではないか。
効果音「ゴオオオオオオ……」
ゴロ(サンダーの父)「レンブラント光が差している…」
土が掃除機に吸い込まれるように天に上がると鬼江の周囲にだけ光が差し込んで神々しいものさえ感じる。初めてみた大技だけに無双も息を飲んで言葉を失っていた。
鬼江「結構深くまで穴あけちゃったけどね」
十文字(無双)「ああ……」
まるで巨大なあり地獄の穴である。無双はここまであけるつもりはなかったのだが、鬼江の得意そうな顔を見て言い出せなかった。

ゴロ(サンダーの父)「いつの間にこんな技を…それにしても、吸い込まれた土は何処へ行ったんだ?」
鬼江「別の次元っ…ていっても判らないわよね。私にだって判らないわ。」
無双はその穴の中にきらりと光るものを見つけて滑り降りていった。鬼江達が制止する間もなく無双が穴から拾ってきたのは小さな小箱。
鬼江「何よ、それ?宝物??」
十文字(無双)「蔡さんに頼まれていた遺骨です。…おそらく」
古びた小箱はお菓子の箱だったのか。はがれたパッケージは変色し、所々腐敗している。それでもここまで深くに埋めていたのは誰にも発見されないためだろう。
十文字(無双)「(箱を少しだけあけて中を覗き込むと再び閉じる)…蔡さんの弟さんの遺骨です。私は蔡さんに頼まれてここまで来ました。」
彼が生きていたと言う証を立てるために。そして蔡の意志を継ぐために。死者を忘れてはいけない気持ちが今の無双の原動力になっている。
十文字(無双)「蔡さんがいなくなってから初めて彼を客観的に見れました。生きていたら彼がしたかったことを今この地に立っている私がしています。社長が過去にみた試合場に立って、彼と戦い、彼を失ってまたここに来るのは辛かったです。でも、避けられないんだと思いました。」
ゴロ(サンダーの父)「それは同感だな…」

ゴロは遠い目で試合場の天井を眺めた。彼は雷流丸との苦い思い出がよぎったのだろうか。深いため息をつきながら周辺を歩き出した。
ゴロ(サンダーの父)「…出来ることなら雷流丸の亡骸を共に葬ってやりたい…だが、シンボルストーンの爆発でそれもかなわなくなってしまった…」


その頃、風船猫フジは滝の奥にある洞窟に身を伏せていた。華奢なフジの体に絡みつく導火線のような水の管は苦しげなフジの命を繋いでいた。この状態はどうしたことだろう、と誰かが見たら訪ねるかもしれない。引き絞るような声でフジは独り言を弱々しく呟いた。
風船猫・フジ「寿命…終焉ガ…チカイ」
息を吸いこむとまたフジの花が足元から咲き乱れる。ぐらりと視界が緩んでフジの目の前に立っていた白い人物は肩を貸すように寄り添ってきた。けれどその肩もフジには淋しい気持ちにさせるばかりだった。
風船猫・フジ「コロシテクレ…コロシ…」
誰よりも長く見守ってきた神と呼ばれた自分は体を病んでしまっている。どのみちこのまま生きていても毒をもたらすだけの体だとフジは悟っていた。

???(白きもの)「諦めないで…」
風船猫・フジ「空間ヲ旅シ、…ナガラ。皆ガ羨マシイトイッタ。自由ダト。デモ…」
???(白きもの)「もう…喋らなくていいよ…判ったから」
フジと同じ背格好をした白き者は乱れたフジのマフラーを巻きなおして背中をさすった。誰よりも多くの人を助けたい平和主義な彼が今では災厄をもたらす厭わしい体になったのがフジ自身誰よりも許せないのか。彼は死を望む言葉を吐き出していた。
風船猫・フジ「モウ、疲レタ……眠ラセテ欲シイ…」
傍にいた白き者の表情が一瞬、かげったような気がした。フジを見るのが辛そうで視線をそらしている。だが、やっとやっとの思いで言葉を紡いだ。
???(白きもの)「…いいよ…僕、傍にいるから…」


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