最終章・第21話「何故に」

轟音とともに腕の引っかかっている木の枝まで飛んでいく最中、無双は意外な光景を上空で目にした。遥か先の山道で雷流丸とゴロが歩いている姿を。
十文字(無双)「(やはり生きていたのか……)」
腕を伸ばして鬼江の義手を掴み取るとそのまま空中で回転して状態を立て直す。そのまま上着を広げ、パラシュートの代わりにした無双はゆっくりと地上に着地した。
十文字(無双)「流石、鬼江さんです。鬼江さんの手が手がかりを見つけてくれました。」

ゴロと雷流丸はある場所に向かっていた。激しく咳き込む雷流丸を気遣うように彼の傍に寄り添うゴロがいた。
雷流丸「俺を何処へ連れて行くんだ…こう見えても俺は病人なんだぞ…」
愚痴をこぼしながらゴロの後を追う雷流丸。ゴロはただ黙って聞いていた。
十文字(無双)「あの方向は…こっちに向かっているぞ?」
鬼江「無双ちゃん、ありがとう〜〜〜〜〜!!」
逞しい腕に包まれ、無双は思考が止まった。青ざめる無双に鬼江がキス攻撃を開始したからだ。
十文字(無双)「う……ぎゃあああああああああ〜〜〜〜〜っ」
地上に無双が降りた途端、猛禽類に襲われる勢いで抱き寄せられた無双はその後なんとか自力で鬼江を落ち着かせて引き離した。
十文字(無双)「鬼江さん、かなり上空まで飛べましたよ。」
雷流丸「でもよかったわ。私と無双ちゃんの合体技完成ってわけね。」
十文字(無双)「ええ…シンボルストーンも破壊だけに使うのではなく、こういった使い道もあります。」
坂城「そりゃそうだ。破壊の為に神さんがこの力を授けてくれたわけじゃない。ただ、それを知らないだけさ。」
十文字(無双)「神さま……、か。」
無双はポツリと呟き、空を見上げた。自分は何故このような力を授かったのだろうとふと思った。それは神様の気まぐれか否か分からない。ただ、使いようによって人を救うことも出来るものであり、人を貶めることも出来る両刃の剣である
十文字(無双)「(私の力は微々たるものかもしれない。でも、この力で少しでも誰かの役に立てれば……)」
坂城「おい、誰かこっちに来るぞ!」
十文字(無双)「きっと社長たちだ、早く隠れよう!」


効果音「ガササッ」
覆い茂った草陰に隠れて息を潜める。が、何故か坂城だけが隠れずにゴロに軽く会釈をして挨拶している。
十文字(無双)「(坂城さん?)」
隠れた鬼江と無双は坂城に声もかけられず離れて様子を見ることにした。
坂城「ゴロ、久し振りさね。」
ゴロ(サンダーの父)「…ここになんの用事だ?」
坂城「車で軽く旅してたさ。そっちはどこに行くつもりだ?」
少し間を空けてゴロは考え込むように『隣町へ』と答える。その言葉を聞いた鬼江はますます理解できないのか無双に小声で話し掛けてきた。
鬼江「無双ちゃんも社長も隣町になんの用事があるの?」
十文字(無双)「私はともかく、社長は多分…」
ゴロ(サンダーの父)「積もる話もあるが、先を急いでいる…じゃあ、気をつけてな」
坂城「おや、そっちの大きい人はどなたさね?」
雷流丸「……?」
坂城はひときわ背の大きい雷流丸を凝視している。雷流丸は突然声をかけられ、戸惑ったような表情をしていた。

ゴロ(サンダーの父)「さっきそこに通りがかってな…隣町に詳しいから案内してくれると…」
坂城「それにしては……その人からは血のにおいがしてくるさね。気をつけるがええ。」
意味深な言葉を残して坂城は車に乗り込んだ。そのまま車を発進させると遠ざかっていく。
ゴロ(サンダーの父)「…昔から勘が鋭いジィさんだ。」
湿地帯から森の向うに消えていく坂城の車を見送りながらゴロは独り言を呟いた。内心はこれ以上問い詰められたら自分でもなにを言い出すかわからないと思っていた。あの男はそんな危うい気持ちを簡単に開けてしまう名人だった。
雷流丸「血のにおいか。もう洗い流しても体臭になってるのかもしれねぇな。」
首をこきこきと鳴らして雷流丸は苦笑いした。隣にいたゴロはその言葉には答えず再び道を歩いていく。そのやりとりをずっと見ていた鬼江は雷流丸の姿を見て驚きを隠せなかった。
鬼江「ちょ…なんで生きてるのよ!っていうかなんで生かしてるわけ??」
十文字(無双)「落ち着いて小声で話してください。」
鬼江「無双ちゃん、あんた知ってたのね?蔡ちゃんを死に追い詰めて、無双ちゃんに傷を負わせたのにっ!くやしいわよっ」
雷流丸「……鬼江?」
興奮した鬼江はたまらず、草の陰から飛び出した。雷流丸は以前鬼江とは面識があったが、オカマになってからの彼とは初めて会うようだった。背後で無双が彼を抑えようとしている。
雷流丸「…ずいぶんと変わってしまったな…昔のお前は寡黙だった。それに、化粧が少し濃いようだ…どういう風の吹き回しだ。」
鬼江「とぼけんじゃねえ!」
いつの間にか鬼江は男の口調になっていた。太い声はますますドスをきかせ、目つきは先ほどとはうって変わって厳しくなった。
鬼江「お前が坊ちゃんを誘拐しようとしたことで、大切なものを失ってしまった…俺の腕が一本なくなるのは構わん、だが…」
十文字(無双)「(お、鬼江さんが…男になってる!)」


一羽の鴉が上空を飛ぶ。その陰がゆっくりと湿地帯の地面に通り過ぎた頃、鬼江は男に早足で近づき片手で掴みあげていた。
鬼江「お前なんか死ねばいい。社長が許しても俺が……」
十文字(無双)「鬼江さんっ」
せせら笑うような鴉の低い鳴き声が無双を不安定にさせた。止めなければ、と思うのにうまく言葉が出てこない。鬼江の手はゆっくりと男の首を締めていたが男は微動だにせず、ただ目を閉じている。
十文字(無双)「鬼江さん、蔡さんはそんなこと。そんなこと望んでません!」
鬼江「無双、お前に何がわかるっ!」
ゴロ(サンダーの父)「無双の言うとおりだ…鬼江、離しなさい。」
鬼江「社長。お人よしもいい加減にしたらどうだ。蔡のことをなんとも思ってなかったのか?」
ゴロ(サンダーの父)「最初から知ってたよ。蔡がこの男と繋がりがあったのも。…それでもあえて雷組の『家族』として受け入れた。失って悲しいのは同じだ。」
鬼江「……!」
十文字(無双)「鬼江さん、悪い奴だから殺していい道理などない。今ここでこの男を手にかけたら、あなたは人殺しになってしまう…そうなったら、鬼江さん、私はあなたを一生恨む!」
効果音「ドサッ」
無双の言葉に一瞬固まった鬼江は雷流丸を突然離した。雷流丸は力なく咳き込み、鬼江に背を向けるようにしゃがみこんだ。

十文字(無双)「……死んでも何の償いにもならない…」
蔡にとっての父親が相反するものであって憎しみの対象ではなかった。目の前の男をなぶり殺しても蔡は喜ばない。
十文字(無双)「鬼江さんがそうする前に私だってそうしようと思った。私が蔡さんに関わった時間は鬼江さんや社長よりも少ない。けれど、つかの間でも私はわかった気がしたんです。」
鬼江「何を……」
十文字(無双)「父親を憎むことができなかった……けれど父親を愛することもできなかった。ただ、それだけなんです。」
声色に僅かに悲しみを滲ませて無双は言い放つと雷流丸に近づき、背中を摩った。
十文字(無双)「…親を慕う気持ちは生まれてくれば誰にでも備わる感情です。私の父は死にましたが私は今でも父を誇りに思っている。多分…蔡さんは私のそんな感情を羨んでいたんでしょう。」
ゴロ(サンダーの父)「結局、誰も父親にはなれなかったようだ…」
鬼江「む……無双ちゃああああああ〜〜〜〜ん!!」
涙を流した鬼江が無双に抱きつくと無双は引きつりながら社長の顔を見た。社長はなにも言わずに無双を見ている。
雷流丸「何処までお人好しなんだ…ば、馬鹿じゃねぇのか…くぅっ…」

口では強がりを言っていたが、雷流丸は大粒の涙をこぼしていた。無双は鬼江からの強烈な抱擁によって、また意識が途切れそうになった。ゴロは慌てて2人の傍に駆け寄る。
ゴロ(サンダーの父)「…思い切り堕ちているぞ。」
鬼江「まっ、いやだ!私ったら、取り乱して…無双ちゃん!」
十文字(無双)「(…なんで、こんな目に…)」
鬼江にはこのまま男に戻って欲しかったと一瞬思った…この会社に入ってから何度気を失ったことか…。


雷猫・サンダー「…みんな、どこにいったんだろ」
その頃サンダーは暇をもてあましていた。鬼江もまだ帰ってこないし父親は不在だ。ギンは相変わらず仕事でかまってくれない。いっそ口うるさい者がいないうちに自由に遊びまわろうかとさえ思ったが、考え直す。
雷猫・サンダー「…でもなぁ。また勝手に飛び出して誘拐されたらまた怒られるし。」
ピカリ(サンダーの母)「懲りたの?」
やさしく微笑む母に肩を抱かれてサンダーは甘えるように寄りかかる。こうして母親を独占できるのも悪くは無いがなにか物足りなかった。
雷猫・サンダー「(無双の奴、今頃鬼江といいもの食べてたりして…)」
縁側で母親に寄り添いながらサンダーは無双と鬼江がおいしいデザートを食べているのを想像した。ギンが『あの二人はラブデート』とか言ってたからきっとそうに違いない。
雷猫・サンダー「(風月堂行きたいなぁ……)」

十文字(無双)「寄り道している暇はないんです!」
鬼江「どうしてぇ!さっきのお礼に喫茶店行こうって言っているだけじゃないの!それに喫茶店に行くのは昔からの夢だったのよ〜」
十文字(無双)「喫茶店はいつでもいけるじゃないですか…あっ、社長!鬼江さんに何とか言ってくださいよ…」
すがるような目でゴロと雷流丸に助けを求める無双。いつの間にか無双との距離が10mほど離れている。
ゴロ(サンダーの父)「無双、人の好意は喜んで受けるものだ…鬼江もお前に怪我をさせたことを酷く気にしていたからな…」
あくまでも突き放した態度からするとやはりこの二人はなにか知られたくない用事があるのだろう。無双はそう考えると鬼江のことよりも社長の真意が気になっていた。
十文字(無双)「待って下さい!社長!」


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