第20話「果てしない空を」

効果音「カツン、カツン…」
無双は松葉杖を突きながら、鬼江に寄りかかるようにして歩いていた。時折、看護婦が鬼江の顔を見てくすくす笑っている。鬼江が大柄なためか化粧が濃いためか定かでなかった。
鬼江「まっ、私達そんなにお似合いかしら?ねえ、無双ちゃん。」
十文字(無双)「さあ……」
鬼江の問いかけにも返す気にもなれない。無双が倒れる直前に見た雷流丸の顔が目に焼きついている。あれが蔡たちに暴力を振るった男とは思えないくらい、弱弱しい表情だった。
十文字(無双)「(社長は隠している)」
証拠はないが雷流丸を表面上「病死」にしておいてそのまま解放したのではないか、そう思えてしまう。しかし、あくまで仮説に過ぎない。
十文字(無双)「鬼江さん…、もし雷流丸が生きていたらどうしますか?」
怪訝な顔をして鬼江は無双の顔を凝視する。悩んだ後で鬼江は答えた。
鬼江「もし、そうだとしても雷組が黙っちゃいないわよ。坊ちゃんを誘拐した罪を誰も許しはしないわ。生きてたら……こう(首に手をあてて切る真似をする)よ」
十文字(無双)「…そうですか」
鬼江「なに考えてるの?」
考えを悟られないように笑みを作ると鬼江もそれ以上の追及はしてこなかった。そのまま外に出ると鬼江と無双は目立たないように停車していた車に乗り込む。

坂城「無双よぉ、電話があったんで車を出したがどこにいくさ?」
運転席にいた男はミラー越しに無双を見てこういった。男は歳は80過ぎの白髪で顔には日に焼けていくつもの皺とシミが刻まれている。車はオンボロで煙草のにおいと潮のにおいが入り混じっていた。
十文字(無双)「ご無沙汰しております。突然で申し訳ありません。鬼江さん、父と仕事仲間だった坂城さんです。」
鬼江「初めまして…無双君と同じ『雷組』に勤めている鬼江と申します。」
坂城「なに、いいってことよ。丁度退屈していたし…無双、お前も隅に置けないな。」
はぁ?と首をかしげる無双は横にいる鬼江を見た。手鏡を見ながら口紅を塗りなおしている鬼江からはほんのりと花の香りがしている……もしかして、と無双は青ざめながら首を振って否定した。
十文字(無双)「誤解しないで下さい!鬼江さんはおと……っ!」
ナレーション「ガゴンッと大きな石に乗り上げて車が軽くバウンドすると無双はいいかけた言葉の代わりに舌を噛んだ。」
坂城「いいってことよ。カカァは図体デカイのがええ。元気ええガキをいっぱい生むさ。」
鬼江「まぁ!子供なんて!まだ早すぎるわっ」
十文字(無双)「〜〜〜〜〜(声にならずに口をもごもごさせる)」
坂城「で、無双よ、隣町に行きたいんだってな。遠回りのルートになるがええか?」
鬼江「隣町?!無双ちゃん何しに行くのよ!」
十文字(無双)「到着するまで秘密ってことにしてください。坂城さんもお願いします。」
効果音「ボスン、ボスン……」


年季の入った車からは激しくエンジンをふかす音が聞こえる。少なくとも20年は乗っているであろうこの車は小刻みに震えている。
坂城「歯ぁ、食いしばって乗れや。油断していると舌噛む…それじゃ、いくぞ。」
効果音「ガガガガガガッ」
鬼江「ちょっとお!何よ乱暴な運転ね!きゃああ!」
鬼江の悲鳴と共に車は派手な音を立てて発進した。無双は幼い頃から何度か乗っていたのでこの車の振動には慣れていたが、鬼江は10分もしないうちに車酔いしてしまった。
坂城「はっはははは。この車は持ち主に似ておんぼろさ。」
鬼江が蹲ってる中無双と坂城は和みながらドライブを楽しんでいた。ただ鬼江を除いては。
坂城「そろそろ着くだろ。久々に人を乗せて走るのもええな。」
鬼江「…あんた、人使い…車使い荒いわね!うっ!」
十文字(無双)「大丈夫ですか…鬼江さん。」

狭い山道がどんどん開けてくるとそこに広がっていたのは湿地帯だった。流石にここを車で通り抜けられないと判断した坂城はその場で車を止めた。
坂城「黒犬どもがとおらねぇ道っつたらここしかねぇ。遠回りになるがこっから歩くがええ。」
十文字(無双)「黒犬は夜にしか現れないのでは?ギンさん達は朝を待って隣町まで駆けつけてくれましたが…」
坂城「奴らはの、昼間でもうろついちょる。昼間は白い姿で夜は真っ黒。大勢なら近づいてもこねぇが無双、おまぇみたいな弱った体じゃ狙われるさ。」
十文字(無双)「白い姿…」
蔡は太陽が昇れば黒犬は消えると教えてくれた。だが、消えるのではなく弱まって姿を隠すだけなのかと無双は思う。しかし鬼江は黒犬に恨みがあるのかその話題で急にしゃきんと立ち上がった。
鬼江「黒犬なんて犬鍋にしちゃうわよ!無双ちゃん、安心しなさい!!」
十文字(無双)「はぁ…」
坂城「こりゃ頼もしい嫁っこや。」
黒犬によって失った腕についている義手をぶんぶん振り回す鬼江。腕を失った直後に病院でつけてもらったものだが、時折ミシミシと音がする。
十文字(無双)「無茶をしないでください、鬼江さんだって深手を負ったんですから…。」
鬼江「あら、私はもうぴんぴんしているわよ!腕だってこのとおり……」

効果音「ブンッ」
十文字(無双)「鬼江さん、腕!」
腕が宙に舞い、木々の中に飛んでいった。その後ボスンと音をたてて何かに当たったような音がして無双は怪訝な顔をする。
十文字(無双)「私がとりに行きますから…」
鬼江を残して無双は生い茂った木々の中に入り込む。草の臭いと花の甘い香りを吸い込むと一番大きな木の枝に鬼江の腕が引っかかっていた。
十文字(無双)「…?この薬草は…」
樹木の下に生えていた薬草が視界に入ると無双はそれを手にとってにおいを嗅ぐと口に含む。フジの持ってきた薬草と同じ味だった。
十文字(無双)「…薬草はわかったが、あの腕を取るのは苦労しそうだ」
それから無双を待ちきれなくなった鬼江と坂城が駆けつけてくる。木々を見上げながらあまりの高さに3人はどうしたらいいか話し合う。
十文字(無双)「シンボルストーンの力を使ってもあの高さまで届くかどうかは難しいですね。」
鬼江「ふふふ……いいこと思いついちゃった♪私の新技なら取れるわよ。これで黒犬追い払ったんだから。」
十文字(無双)「技…あの爆発ですか?」
坂城「止めとけ。あれは推定樹齢200年の大樹だ。何かが宿ってるかもしれん…呪われたら大変なことになるぞ。」
鬼江「いやだ、おじいちゃん。そんなの迷信よ。」
坂城「年寄りの話は聞くもんだ…あの大樹はいわくつきのもの。大昔にこの樹を切り倒そうとしたものが次々と謎の死を遂げておる…。」

十文字(無双)「…うっ」
去れっ!と言う叫び声と同時に体を揺さぶるかのような振動が全身に伝わってくる。
十文字(無双)「鬼江さん、私に任せてください。倒さず、木を傷つけず、腕を取り返しますよ。」
2人もきょとんとして無双の顔を見ている。意味の分からない謎々をかけられた気分で無双に任せるしかなかった。
坂城「任せるとするさ…」
十文字(無双)「まず、この木は私達を拒んでいます。シンボルストーンで傷つけることは出来ません。けれどあの場所まで、あの高さまで技を飛ばそうとするから『届かない』と思うんです。自分自身が飛べば問題なく『届く』」
鬼江「私に無双ちゃんを飛ばせって事?」
坂城「無茶するさね」
十文字(無双)「鬼江さん、思いっきり飛ばしてください。」
鬼江「無双ちゃんのお尻になにかあったら心配だけど、腕もなくちゃ困るしやってみるわ!」
十文字(無双)「…私のお尻の心配は結構です…。」
鬼江は意気揚々と生身の腕のほうの袖をまくった。無双の腰回りよりも太くたくましい腕に無双は思わず後ずさりした。
鬼江「ふんぬっ!」
鼻息も荒く、鬼江は精神を集中して気合を入れる。すると鬼江の体からピンク色のオーラが徐々に広がっていくのが無双にも見えてきた。眉間に皺を寄せ、腰を突き出したスタイルで肩に無双を担ぎ上げると鬼江は奇声を上げて巨大な光の球体を手に作り出す。
鬼江「気・愛のダーリンスペシャル!!」
十文字(無双)「…あ、愛?って、うわぁぁぁあああああああ!!!!」
掛け声にやけに意味深なものを感じた無双が焦った時、驚くほどの速さで成長した光の球体は無双を吹き飛ばすように爆発した。その衝撃を防御の壁で体を守りながら無双は上を目指して飛んでいく。
効果音「ドォオオオオオオン」


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