第5章・第17話「死中に活を求めよ」

奴は無双からかなりの距離があったはずだった。だが、雷流丸が刀を振り下ろした瞬間、銃で頭を撃ちぬかれたような衝撃を受けた。痛みより先に頭蓋骨が破裂する音が響いた。
効果音「バアアアーーーーーン…!!!」
十文字(無双)「ぼ…坊…ちゃん…」
目の前が真っ暗になるというのはまさにこのことだった。無双は部活の試合中に昏倒したことがあったが、それに近い感覚だった。いや…。
十文字(無双)「(相手に触れずに…相手を斬る…雷組の倉庫の鍵も…ああ…)」
目の前の景色が音を立てて崩れていく。もう駄目なのかもしれない。」
雷猫・サンダー「無双!目を開けろっ!
白くぼやけた視界の中でサンダーの声が聞こえる。心の中で無双は詫びるしかない。助けることもできず、2人の命を犠牲にした。
「…こっちに来るのは…まだ早いです」
蔡の声と重なるように勝ち誇ったような笑い声も聞こえてくる。ぐだぐだと復讐の機会をを覗っていた男の声。このまま殺されるのだろうか。
十文字(無双)「(このまま死んだら…命はどこへ向かってくのかな…)」


生まれる前の場所。光が届かない闇。暗がりの中で誰かが微笑んだ気がした。暖かい水の中を彷徨うような心地よい流れの中で。
十文字の父「おっ動いたぞ!」
十文字の母「話し掛けられると嬉しくて動くの。早くおなかの外に出たいのよ。ねぇ?」
十文字(無双)「(親父とお袋の声…?ここはお袋のお腹の中…)」
愛おしそうにお腹の中の無双をなでる母。無双が動くたびに子供のように喜ぶ父。無双は両親の声を夢うつつ聞いていた。そして、風船猫が呟いたあの言葉を思い出した。
十文字(無双)「…死は生まれる前の形に戻るだけ…私は還っているのか?」
風船猫・フジ「魂ハ還ッタ…生マレタコノ場所デ…ソシテ…新シイ生命ヘト生マレ変ワル…ソレガ『シンボルストーン』」

どろどろの粘膜のようなものに体を侵食されていくようだ。それは存在そのものを溶かすかのごとく無双の体を覆い始める。
十文字(無双)「…私はまだ無に帰るわけには行かない!」
風船猫・フジ「キミハマダ血ヲ流スノ?」
十文字(無双)「そうじゃない…」
風船猫・フジ「ダッタラドウシテ?無ニカエレバ誰モキズツケナイ。」
十文字(無双)「死んでしまえば……親父に合わせる顔がない…守りたいから」
「誰を守るんですか?」
十文字の父「答えはいつだってお前の中にある」
様々な声が入り乱れる。だが、姿の見えない誰かに向けて無双は言い放つ。
十文字(無双)「…守りたいものは私の傍にある!」
効果音「グオオオオ…オオオーーーーン!!」
凛とした声と共に眩い光が出現し、無双の体を覆っていたものを消し去った。無双の瞳と同じ灰色の鉱石が無双の手のひらにあった。
十文字(無双)「大切な者を守る力を!シンボルストーン・ライドオン!」

十文字の母「------外の世界は辛いことも悲しいこともあるかもしれないね。だけど楽しいこともたくさんあるのよ。」
十文字の父「----暑かったり寒かったり」
十文字の母「---笑ったり泣いたり」
十文字の父「----かぁちゃんと俺の子だからきっと人の痛みもわかってやれるさ」
十文字の母「---早く外に出ておいで」
十文字の父「---優しいかぁちゃんと、博打に強いとうちゃんがお前を待ってるぞ」
楽しげな会話はやがて聞こえなくなっていった。
効果音「シュゴオオオオ…!」


雷流丸「ふははははは!貴様のシンボルストーンを砕いてやる!止めだ!」
雷猫・サンダー「無双ーっ!!!」
雷流丸が無双の胸をめがけて金棒を振り下ろしたその時、強い光が彼を守るように金棒をさえぎった。
効果音「ガシイッ!!」
雷流丸「なにっ?」
雷猫・サンダー「無双……」
十文字(無双)「坊ちゃん、怪我はありませんか」
雷猫・サンダー「馬鹿…馬鹿だ。お前は、……っ」
混濁した意識の中で目覚めた無双は光のなかで防御壁を張りながら起き上がった。穏やかで、なにかがふっきれたような表情だった。
十文字(無双)「スイマセン」
無双は泣きじゃくるサンダーを抱きしめる。引きつるように時折揺れる小さな肩が痛々しかった。小さな命が震えている、と無双は感じる。それは自らが傷を負うよりも胸が苦しく辛くなった。けれどそれは無双が生きている証拠だ。
十文字(無双)「雷流丸…お前は弱い」
雷流丸「なにいってやがるんだてめぇ!」
十文字(無双)「過去に囚われて今を大切に出来ないお前の心が弱いといっているんだ。過去の敗北は変えようがない、だけど明日は強く生きれるかもしれない、前に歩き出せる!いつまでも過去に縛られて弱い者にまで手をかけるその心がお前をずっと敗者にさせるんだっ!」
無双は雷流丸をこの時初めて罵面した。それは無双の本心だった。これまで生きてきた年数は無双よりも多いかもしれない目の前の男は無双よりも愚かで幼稚だった。強さはひけらかすものではない、そんなことの為に使うなら他にやるべき事がある…そう信じているから。

雷流丸「ククククク…俺よりずっと若造のお前に説教されるとは…過去に縛られる…まさにそのとおりだ。だが…俺の時間も残り少なくなってきたようだ…。」
十文字(無双)「…何?」
雷流丸「今までこうして存えて来たが、もう俺の肺は中まで腐っている…他の町に出ようとすれば体は拒絶し、それこそ死に至るだろう…。」
効果音「ゴホッ、ゴホッ…ゲハァ!」
雷流丸は苦しそうに胸を押さえ、その場に座り込んだ。大量の吐血が地面に流れ落ちた。今までいきがっていた男の姿とは思えない。
雷流丸「いいか……よく聞け。お前には未来がある。だがな、俺にはない、前を歩けばその先は崖だ。」
十文字(無双)「まだ間に合う。やり直しは出来るはずだ。」
雷流丸「…話しても無駄なようだ」
十文字(無双)「無駄なことはないっ…、戦わずに済むならそれで…」
その先の言葉を男は攻撃を仕掛けることで制止させた。話し合いなど最初から臨んではいないと無言のうちにいってるようなものだ。無双は辛そうに顔を歪めてサンダーを抱きかかえると宙に身を躍らせた。
十文字(無双)「(雷流丸…さっきの言葉は蔡さんだってお前に言いたかった言葉なんだ…きっと)」
実の親子だと知っていたから向き合えなかった、本当になにもいえないままに死んだ蔡。そして今なら蔡の気持ちがわかる。父親を憎みきれていなかった、無双を殺すこともできなかった優しさ。
十文字(無双)「(戦うしかないのか…)」
無双はジャンプした後。少し離れた位置に着地するとサンダーを降ろして身構える。
雷猫・サンダー「無双…」
十文字(無双)「大丈夫ですよ…坊ちゃん…ぐっ!」


こめかみに激痛が走る。さっきの額の傷もまだふさがっていない…いや、傷という生やさしいものではない。頭蓋骨が陥没し、脳漿が流れ落ちそうだ。
雷流丸「ククク…俺の技を受けて再び立ち上がれたのはお前が2人目だ…」
十文字(無双)「2人目…もうひとりは…まさか!」
雷流丸「なぁ?これも運命かもしれねぇ…ここでお前は蔡の血を浴びて真っ赤になった服を着て俺の前にたっていやがる。…ココの町ではな、死者は赤い服を着るんだ。死者を見送るのも、また赤い服だ。どういう意味かわかるよな?」
十文字(無双)「死でしか決着が付けられないというのか。」
雷流丸「…終わってしまえば楽になれるだろ?」
そういってゆっくりと歩み寄ってきた男は無双の足を狙うかのように地面から攻撃を仕掛ける。徹底的に動けなくしてから殺すのだろう。俊敏ささえなくしたらあとはとどめをさすだけだ。
効果音「ヒュッ(風を切る音)」
無双の足元から地面が盛り上がる。生き物が這いまわるかのような盛り上がりができると無双を押しのけるようにして足を不安定にさせる。踏みとどまって足の位置を変えると土が意志を思った塊のように無双を追いかけてくる。まるで立っている場所をなくすかのように。
雷流丸「もう観念しろ。お前はこの地面にひれ伏して、情けなく悲鳴をあげて、惨めに命乞いして、死ぬんだ」
十文字(無双)「…土を操る魔法か。そうまでして…勝ちたいのか?まともに戦う自信がないんだろう?」
雷流丸「………」

無双の言葉に雷流丸は一言も返さなかった。そうしている間にも無双の足元には土の化け物がうねりながら襲い掛かってくる。巨大なもぐらが掘り進んでいるように。
効果音「グオオオオオオッ」
十文字(無双)「このままじゃ体ごと地面に吸い込まれる!『雷の杭』!」
効果音「ビャッ、ビャッ、ビャーン!」
無双は雷の魔力を丸太のような杭に変え、数本を地面に打ち込んだ。動きを止められた土は杭によって感電し、最後には灰と化した。

十文字(無双)「剣の勝負をしないか……あの日の試合で勝てなかった、それを再現すればいい。もし、勝ったらその後好きにしろ。坊ちゃんを殺せばいい。」
目で訴えるかのようにサンダーが無双を見つめていた。低く押し殺した声は意を決しているようだ。ここで殺し合いをしないかと提案しているが無双は狂ったのかとサンダーは震えた。
雷流丸「覚悟ができたってわけか」
坊ちゃん……と無双がその視線に答えるように背後のサンダーに振り返る。言葉にならない口は「信じろ」と言っているように見えた。
雷猫・サンダー「------無双、そいつを倒せ」
サンダーからしたら無双が本気になれない理由もうすうす感じ取っていた。深い事情はわからないがこれまでの戦いには迷いがあった。ここでギンなら迷わず戦い、話し合いなどしないだろう。それは無駄なことだと最初からわかっているから。無双も判っているはずだ。
雷猫・サンダー「(無双の言葉は本心からじゃない)」
『守るべき知恵も必要になります。冷静な判断力をなくし、我を忘れた行動では守るべき相手も守れません。』それは無双の言葉だった。だとしたらさっきの無双の言葉はなにか作戦がある、とサンダーは信じることにした。


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