第16話「禁忌に抗うもの」

雷流丸「でてきやがったな、悪魔め」
白い光に向かって男が罵りの声をあげる。憎らしげに顔を歪ませながら既に傍にいる無双のことなど眼中にないように語りだした。
雷流丸「……知ってるんだぜ、風船猫。てめぇをぶっ殺せば、悪魔のような力が手に入るってことをな!」
風船猫・フジ「……力ナド無意味ナモノダ」
十文字(無双)「(これが風船猫?…やはり本当にいたのか)」
風船猫・フジ「君達ハ何故争ウ?コノ小サキ魂ガミエナイノカ?」
サンダーは風船猫の腕の中で気を失ってその身を預けている。サンダーが無事なのを確認し、安堵する無双とは反対に雷流丸は激昂しながら風船猫に殺意を見せていた。
雷流丸「…肉体を破壊せずに『時間操作』が許されたのはてめぇだけだったなぁ?あの試合でゴロに手を貸したのはお前、蔡を助けたのもお前。いつだって邪魔しやがって…っ」
十文字(無双)「(……『時間操作』?)」

猫型宇宙人の全ての種族に共通する禁忌の魔法がある。『時間操作』はそのひとつであった。それを使ったものは代償としてシンボルストーンが破壊され、肉体がこの世から消滅する。
風船猫・フジ「チカラデネジ伏セソレヲ手二入レテ、オ前ハナニヲスルツモリダ…?」
白い風船猫の表情はわからないが、ひたすら淡々とした口調で話している。どう表現していいのか解らないが、力強いオーラのようなものがあった。
十文字(無双)「黒犬に襲われた私の力を解放させたのはあなただったんですか…?」
風船猫は無双の問いには答えず、浮いた場所から階段を下りるようにゆっくりと無双に近づいた。それでも風船猫の顔は光に包まれたままで見えない。ただ、吸い込まれるような真っ赤な目だけが無双の姿を映し出していた。
風船猫・フジ「……無……双」
これ以上にないぐらい風船猫は無双の傍にまできている。無双はどうしていいかわからずその場に立ち尽くした。ゆっくりと顔をあげた風船猫はやがてその光を弱めてあっという間に別のものに姿を変える。ふいに近づく手は懐かしい手に変わり、その声には親しみが滲んでいた。
風船猫・フジ「無双…コレハ君ノココロノ残像。コノ子ノマエデ人殺シヲミセテハイケナイ……」
ぼんやりとだがその姿は風船猫が蔡の姿を模倣している。唯一違うのは真っ白い髪と全身を白い着物で身を包んでいることぐらいで蔡の声も姿もそっくりだった。笑みを深くして風船猫は腕の中のサンダーを無双に渡す。
雷猫・サンダー「…(眩しい光に意識を取り戻し)蔡?生きて…たのか……」
サンダーの頬を細い手を伸ばし撫でるとそのまま風船猫は背後に飛び降りた。水しぶきの中に姿を消すとまるで魚のようにスッと水に溶け込んで消えていく。その場の誰もが動けず、夢のように風船猫は姿を消した。だが、最初に動き出したのは雷流丸だ。
雷流丸「(滝を覗き込んで)糞野郎っ!てめぇは何がしてぇんだっ!!」
十文字(無双)「それはお前の方だ!……、もう復讐なんてやめろっ!」


効果音「ザッ!」
無双は再び刀を構え、体勢を整えた。風船猫を目の当たりにした直後の雷流丸の態度は明らかにおかしかった。風船猫に心を見透かされ、狼狽していたのか.?それとも…。
雷流丸「誰であろうと俺の前に立ちふさがる奴は全て…倒す!!でりゃああああーーーーっ!」
効果音「ボオオオッ!」
十文字(無双)「(シンボルストーンの光!)」
雷流丸「まさか、貴様相手にシンボルストーンを使うことになろうとは…気絶させるだけでは済まさん!」
無双は風船猫の言葉の意味をよくわかっていた。それはサンダーの前で……もしかしたら蔡の前で人殺しをするなと。だが、言葉で説得は不可能だ。無双はここにくるまで戦う覚悟は出来ていたがずっと心にひっかかっていた。戦いのあり方を。ぼっちゃんさえ無事なら男が改心すればそれでよかった。それ以上なにも望んでいない。
十文字(無双)「(……雷流丸。戦って勝利しても守るべきものがいないのならそれは本当に無意味な力だ)」
ナレーション「その思いが言葉になることはなかった。」
十文字(無双)「----坊ちゃん!逃げなさい。この場から離れるんです!!」
雷猫・サンダー「嫌だ!」
覚醒したサンダーは無双の背後で袖をつかんで離そうとしない。まるで離したらこのまま無双が消えてしまいそうで不安だったからだ。
雷猫・サンダー「帰るなら一緒だろ?」
サンダーの懇願の声に無双は動揺する。サンダーはガタガタ震えていた。さっきまではあんなに強気だった気持ちが崩れてきている。けれど……。
雷流丸「安心しろ。仲良くまとめてぶっ殺してやらぁ-----!」
効果音「ヴォンヴォンヴォン…」


ギン(十文字の上司)「こ、これは…蔡が念力で飛ばした紙飛行機!」
猫D「手紙が付いている!3人に何があったのか?」
無双と雷流丸が対峙している頃、鬼江が黒犬に襲われた直後に飛ばした紙飛行機が雷組にたどり着いていた。紙飛行機は雨風に晒されたのか、かなり色あせていた。

ギン(十文字の上司)「……お、鬼江が……」
猫E「鬼江さんがどうしたんですか?!」
ひらりと紙がギンの手から滑り落ちた。至極真面目な表情でギンは集合の合図をかける。ただならない異変を感じて周囲がざわめくとギンはごくりと唾を飲み込む。
ギン(十文字の上司)「これから話すことを冷静に受け取ってほしい。…鬼江が負傷した。しかもかなりの大怪我だ。」
矛盾したことを言っている、我ながらギンはそう思っていた。判ってはが周囲の目は明らかにギンや無双を無言で非難しているのが伝わってくる。
ギン(十文字の上司)「(やはりついていくべきだったか…)」
ギンは心の中で鬼江に詫びると左手で顔を覆った。誰もがざわついて落ち着かなくなった時、玄関の門が勢いよく開く。皆が音に驚いて緊張をした時。


鬼江「ちょっとぉ〜誰もいないの?怪我人が帰ってきたんだから出迎えてよ!」
聞きなれた太く逞しい声に似合わないオネエ言葉。それは負傷しながらも自力で帰ってきた鬼江の声だった。
猫E「鬼江さ---ん!」
皆が我先にと廊下を走っていく。ギンは驚きながらも顔を見たさに足を速めた。
ギン(十文字の上司)「鬼江ええええええ!!」
効果音「ドタドタドタドタドタ」
猫F「お、鬼江さん、よくぞ無事で…うわっ、ぎゃあああああ!!」
最初に鬼江の姿を見たものが彼の負傷した腕を見て、腰を抜かした。そのあと次々と鬼江の元になだれ込んでいく。深刻な怪我の割りに元気であったので、ギンは拍子抜けした表情をした。
鬼江「何よ、私が死んだとても思っていたの?腕一本取れたぐらいでは私はくたばらないわよ。」
ギン(十文字の上司)「憎まれ口を叩ける余裕があるのなら、十分ぴんぴんしている…」
張り詰めていた感情から解放されてギンはその場に座り込んだ。もしものことがあったら責任をとるつもりだった、けれど腕を失ったことには少なからず胸を痛める。
ギン(十文字の上司)「お前、どうやって逃げてきたんだ」
鬼江「ギンちゃんがくれたお守りを無双ちゃんが腕に巻きつけてくれたからよ。これが守ってくれたわ。」
ギン(十文字の上司)「……ミヨのお守りか……」

ギンは鬼江が持っているそのお守りを見てポツリと呟いた。だが、それからまもなく言い知れぬ不安が押し寄せてきた。どす黒い闇のようなものがギンの心を支配していた。
ギン(十文字の上司)「無双は…蔡は…2人で奴のところに向かったのか?」
鬼江「私が洞窟に近づいた黒犬をおびき寄せるために洞窟から飛び出してシンボルストーンで威嚇した…それ以降、あの2人は見ていない…」
ギン(十文字の上司)「あの周辺を知っているのは蔡だけだ。無事奴らの下にたどり着けたとしても…」
猫F「ま、まさか、無双の奴、やられたんじゃ…」
従業員の1人がこう呟いた時、背後から殺気を感じた。首筋に鬼江の湿ったごつい指が絡みつき、荒い鼻息が聞こえた。
鬼江「今、なんていった?」
効果音「ボキボキボキッ」
鬼江「無双ちゃんがね、やられるわけないじゃない!あんなに若くて可愛いのにっもったいないわよ!」
はぁ?と思うギンとぐったりしたまま床に転がってる従業員を見比べて鬼江はさらりと言い放つ。
鬼江「無双ちゃんは可能性があるの!あんなに小さい体であんなにキュートなお尻で私の心を惑わせたかと思ったらあれで結構男気あるもんよ」
ますます熱弁する鬼江。しかしギンは「お尻と男気は関係ないだろ」と心の中で突っ込みをいれた。
ギン(十文字の上司)「……まぁ尻の話は置いて、あいつが勝てる見込みがあると思うんだな?」
鬼江「でなきゃ腕あげてまで守らないわ」
ギン(十文字の上司)「そうか。それならいい。それでいい。」
周りは納得できずに唖然としてる中でギンだけが安堵して頷いていた。まるでその言葉から全てを悟ったように。
鬼江「無双ちゃんが勝ったら勝利の女神のキスをあげるわ……楽しみ!」


効果音「ゾゾゾゾゾッ」
十文字(無双)「(……なんだ今の悪寒は…?)」
一方、無双は雷流丸と一進一退の攻防を繰り広げていた。実力は五分五分であるが、パーフェクトトランスフォームを会得して間もない無双はスタミナ切れを心配していた。
十文字(無双)「(この刀も私のシンボルストーンで創ったもの…奴に破壊されたら一巻の終わりだ…)」
終わりを想像することができない。未だに傍にはサンダーがいる。さっきみたいに手を出してこないとは思うが気がかりで集中できないことも確かだった。
十文字(無双)「(焦っている……)」
長期戦は経験がない。それが無双の自信を削いでいた。
雷流丸「いくら蔡に知恵を貰ったところで所詮勝敗をきめるのは経験だ。…20年早かったな。」
同じ空気を吸っていても男はびくともしなかった。むしろ免疫ができているのかもしれない。この場では誰が見ても不利だろう。それはサンダーからみても判った。
雷猫・サンダー「無双……無双……」
膝をついて地面に手をつく無双の肩に小さな手が置かれる。失いたくない、それだけだった。
十文字(無双)「坊ちゃん危ないっ!!」
一瞬、サンダーを庇う大きな影が目の前を覆う。無双の痛み、額から流れる鮮血。それをサンダーは一生忘れることはないだろう。
雷猫・サンダー「うわあああああああ!!!」


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