第15話「激昂」

その声と同時に雷流丸は大股のスライドで走り出す。この場所にきた時に無双を襲った異様な脱力感は一体なんだったのか、無双自身は深くも考えはしなかった。
雷猫・サンダー「無双!」
十文字(無双)「う…うっ……」
無双はその場に震えて動けない。身の保身を考えればこの場から身を遠ざけたほうがいいだろう。だが、サンダーの言葉に激しく首を横に振った。
十文字(無双)「(この生命に変えても…坊ちゃんは守り通す!)」
雷流丸「うおりゃあーーーーーっ!」
効果音「ガシャーーーーーン!!!」

雷猫・サンダー「む、無双…」
彼らの動きにあわせたかのようにフジの花びらが舞い踊りサンダーの視界を遮る。
効果音「ドサァッ(倒れる音)」
フジの花が舞うのをやめて風が止まると、白い花びらの下で蹲っていたのは無双だった。地面に舞い落ちた純白の花の上で無双の口から吐血がゆっくりと落ちていく。生身の拳でぶつかっていっても最初から戦いの結果は見えていたのにそれでも無双は怯まなかった。
十文字(無双)「……この地はもしかして……」
軽い視力障害、倦怠感。そして体中の血液が逆流し噴出すような頭痛。それはこの場所にきてから無双を襲っていた症状だった。
雷流丸「…てめぇはこの町が何故封印されたのかどうやら知らないらしいな。」
十文字(無双)「……この花のせいか……」
地面に膝を立てると花びらを一枚手にすくう。すると花びらがしかれていた地面の植物は全て茶色に変色していた。この花は見た目は綺麗だがかなりの猛毒なのかもしれない。
雷流丸「この花はいくら摘み取っても生えてきやがる、風を呼んで病気を撒き散らしやがった。それが数年前からだ。まるで誰かを恨んでるみたいになぁ…」
十文字(無双)「…病気?…」
無双は雷流丸の『病気』という言葉に疑問を抱いた。呟こうにも声がかすれて出ない。何度も咳込み、肺に痛みが走った。
雷流丸「その花びらを吸い込んだものは原因不明の呼吸困難に侵され、次々と寝たきりになった…子供から年寄り関係なしにここに住むものの体を蝕んでいった…そして、この俺も…。」
効果音「ゴホッゴホッ、ゲホッ…グバアッ!」

十文字(無双)「坊ちゃんっ!」
咳き込んでいたのは無双だけではなかった。その場にいたサンダーも体を侵食されている。
雷流丸「(冷たく無双を見下ろし)お前が代わりに死ねばいい…お前もあのガキも。」
十文字(無双)「…くっ…」
雷流丸「…蔡の返り血を浴びてここまで来た事は褒めてやるよ、なぁ?」
その言葉を聞いたサンダーはサッと顔色を変える。蔡の返り血?蔡も一緒だったのかと無双の顔を見た。だが、無双はまっすぐに問いただそうとするサンダーの目をまともに見れずに目を逸らす。その様子に男は笑い出した。
雷流丸「利用価値もないガキだったが案外死んで良かっただろ?殺した感想は?どうだ?」
雷猫・サンダー「無双…嘘だよな。そんなことするわけないよ…な。」
十文字(無双)「…坊ちゃん(無言で首を振る)」
雷流丸「綺麗ごとを言っているが、お前も俺と同じ血が流れている…自分だけが大事だ、他人のことはどうでもいい…あのガキのことを思い出しただけでも吐き気がしたぜ、お前がやってくれてむしろ感謝しているくらいだ…。」
十文字(無双)「…なんだと?」
雷流丸「おや、知りたいか?あのガキ、蔡は俺の死んだ妹にそっくりでな…俺が言うのもなんだが実に別嬪だった…あまりにも頭の回転が良すぎて、それが疎ましかったが…」


十文字(無双)「い、妹?」
なぜか無双の脳裏には桜の姿がよぎった。蔡が雷流丸のことを話していたときは『妹』の話は一切なかったはずだった…だが、無双は心のどこかで引っかかっていた。
ギン(十文字の上司)「(祭は可哀想な奴なんだ。もし、敵であったとしても責めないでやってくれ。あいつは父親の顔も知らない、母親の愛情も知らない子供なんだ)」
あの日、こっそりと耳打ちしたギンの言葉が頭に蘇る。そのときは長い間傍にいたから情が移ったんだと思っていた。だが、本当の話だとしたら…まったく無関係なパズルのピースがつながっていく。
十文字(無双)「もしかして…」
ギン(十文字の上司)「(あいつの父親は消息不明だそうだ。生きてるか死んでるかもわからないらしい。だがな、シンボルストーンで親子かどうかわかるかもしれない。蔡も話したがらないから聞き出せなかったがな)」
十文字(無双)「(……蔡さん。あなたは知っていたんですか。何もかも知っていて…)」
目の前で蔡を罵る男は、無双の感覚が鈍ってなければ蔡の実の父親だ。そして、男の妹はきっと蔡の母親…彼はなにもかも知っていたのではないか。ただ、向き合うのが辛かったから死を選んだのではないか。無双は死の間際、自らの服にうつった蔡の白檀の香りに「遠い場所へ旅立った」蔡の心中を想像する。だけどそれは想像を越えるものだった。
雷流丸「察しがついたか、小僧」
十文字(無双)「…息子を…2人も、殺して、満足か…」
無双が今まで感じたことのない感情がドロを押し上げるマグマのように流れてくる。それは気持ちが悪く心を抉り取られるような痛みと不快感だった。誰にもこんな感情を抱いたことなどないはずなのに理性など吹き飛んでしまいそうだった。
効果音「ゴオオオオ…オオオオオオ…」
十文字(無双)「き、貴様ーーーーーーーっ!!」

雷猫・サンダー「よせ!無双!」
無双の手中にある刀は青白く光り、火花が無数に飛び散っていた。サンダーは逆上した無双を見てただごとでないと感じた。今のままでは無双は奴に勝てない!
効果音「ダダダダダダダ……」
刀から発する火花は無双の怒りだったのか。「八ハッハハハハッ」とあざ笑う雷流丸の渇いた声が無双にはハチの羽音のように煩わしかった。そうだ、目の前の男を殺したとして誰が咎めるんだろう、と心の内で悪が囁く。
猫A「無双、お前さぁ…父親が死んだって本当か?」
猫B「進路の方はどうするんだよ?」
その時、無双の中で同級生の半分同情したかのようなそれでいて好奇心に満ちた質問が再生された。皆、親が健在で誰も父親を失った気持ちは察してくれない。特別視されるのは嫌だったので冷静に答えた。
十文字(無双)「母や妹がいるから、…落ち込んでもいられないさ。」
猫C「同じ歳なのに流石だよ。俺たちとはやっぱり違うよな。」
十文字(無双)「(こんなこと…どうして今更)」
気持ちが崩れかけ、支離滅裂になりかけた思考の中で蔡の声がする。けれどそれは痛ましいぐらい小さな声だった。
「-----『風船猫に生かされた命』を大切にしたと思います…」
十文字(無双)「あなたも…蔡さんも…本当は生きたかったのに…お前が、お前がーーーっ!」
効果音「ガシャン!」


無双の刀を大きな鉄の塊が受け止めた。雷流丸の手にあるものは刀とはとても言い難かった。鬼が持つ金棒に近い感じである。それはミシミシと音を立て、無双の刀に確実に食い込んでいた。
雷流丸「貴様もパーフェクトトランスフォームを使えるのか…お前を見くびっていたようだ…だが、脆い…まさに付け焼刃!」
十文字(無双)「(今日はじめてパーフェクトトランスフォームを使ったことを見破られた?)」
舌打ちして無双は一旦距離を置いて剣を構えなおす。雷流丸は呆れた顔で唾を吐いて捨てた。
雷流丸「貴様には俺の本当の目的が何かわからないだろうな。だが、知らないまま死ぬのは哀れだから教えてやろう。」
ヒュと男が息を吸う音がした。乱闘の中でフジの花がどんどん散っていく。サンダーは大岩に縋って2人を見守っていた。
雷流丸「真の目的は…」
男がそういいかけた時、サンダーが身を預けていた大岩が突如割れてサンダーの体がまっさかさまに背後の滝壷の中に落ちた。
雷流丸「アハハハハハッ!!!!」
最初から男は無双が距離を空ける隙を狙っていたのかもしれない。サンダーとの距離を遠ざけ、最初から滝に叩き落すつもりだったに違いない。
効果音「ゴオオオ……(滝の音)」
十文字(無双)「坊ちゃんっ-----!!!」
仄暗い水底に落ちて行くサンダーを見て、無双は崩れ落ちるように座り込んだ。彼の背後から雷流丸の嘲笑う声が聞こえてきた。

雷流丸「今すぐあのガキの傍に行かせてやる…仲良くあの世に逝きな!!」
十文字(無双)「ぐっ!」
効果音「ドシャーーーーーッ!!ゴバアーーーーッン!!」
雷流丸「なにっ!!」
無双が雷流丸の手によって堕ちようとしたまさにその時、地が割れんばかりの爆音が2人を貫いた。そして、滝つぼからの強烈な光が暗闇を引き裂いた。
効果音「ズオオオオ…ビョオオオ…オオオーーーッ」
十文字(無双)「あ、あなたは……」
無双の目の前にはマフラーをした白い猫がサンダーを抱えて宙に浮いていた。強い光は白い猫の姿をおぼろげに浮き上がらせていた。


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