第14話「滝」

雷猫・サンダー「……今の音は何だ?」
ナレーション「サンダーは遠くから聞こえた銃声に耳を傾けるが、銃声ははそれ以降…聞こえることはなかった。」
雷流丸「どっかの馬鹿が殺し合いでもしてるんじゃねーか?」
ナレーション「既にサンダーは無双達よりも先に雷流丸に連れられ滝の傍までやってきていた。滝の傍には風に揺られながらふわふわと白く咲いている風船猫・フジが咲き乱れ、だがその花を見ると何故かサンダーは母・ピカリを思い出してしまう。おぼつかない足取りでここまでやってきたがここでなにが始まるのか、まだ聞かされていない。半泣きで嫌がるサンダーの腹を蹴りながら男は笑って力任せに威した。『もし来なければお前の大事なものがなくなる』と。」
雷猫・サンダー「(…もっと強ければ、こんなやつ倒せるのにっ)」
ナレーション「サンダーは心の中で悪態をつきながら泣きはらした目を左腕でこする。やはり無双のいう『勉強』よりも武術ができなければいざって時に役にたたない、とサンダーは思った。」


十文字(無双)「うわあああああああ!!!」
一同「!!」
無双は銃が発射されるほんの僅かな間に、無意識から防御壁を作り出した。目にはとまることのない速さで飛び出した一発の弾丸は、無双の防御壁によって跳ね返され…そのまま蔡の胸に命中する。
十文字(無双)「あ…あ……あああっ…」
ゆっくりと、後ろに倒れていく蔡を、無双は呆然としながらそれでも出てくる言葉は搾り出すような苦悶の声だった。無双は涙でゆがんだ視界の中で「何故?」「どうして?」と自分自身に自問自答する。蔡もよけようとはぜずそのまま攻撃を受け止めたからだ。

「(これでいい…私の役目はここまでです…あの男を倒せるのはあなたしかいません…)」
もつれた足で駆け寄る無双の姿も、既に蔡には見えていなかった。その代わりにどうすればいいかわからずに咎めるように悔しげに涙を零す無双の腕の感触だけが蔡の肩に伝わってくる。10年先、20年先、そんな未来は自分には訪れはしないだろうが、彼はよき父親になってほしいと心から蔡は願った。それを言葉にすることは出来ないけれど。
「も…う……汽車の音は…聞こ…ない…」
十文字(無双)「蔡さん…死んじゃ駄目だっ…」
効果音「ピチャン…ッ……」
雨の雫に混じって鮮血が交わるとそれは無双の服を染めていく。胸の出血を押さえようと抱きかかえている無双の腕の中で…蔡は死んだ。
十文字(無双)「…蔡さん…」
微かな声だった。無双は目を真っ赤にしてとめどなくこぼれる涙を拳で拭うと蔡の薄く開いた目を手のひらで閉じさせ、無言で立ち上がる。…もう迷いはなかった。
「(----だって、貴方は愛されて生まれてきたから----)」
シンボルストーンがゆっくりと消滅するように蔡の亡骸も光に包まれると無双は振り返らずに走り出す。
「(…母さん…)」
謎の声(男)「カレノコトハワタシニマカセロ…」
シンボルストーンからこぼれた光がひとつの姿を作り出した。そして、それは蔡を抱えるようにして空へと向かっていった。母のいるあの空に蔡は還っていった…。


雷猫・サンダー「(今、新人の声が聞こえたような気がしたんだが…)」
湿っぽい夜の風が頬を掠めるとサンダーは暗くなった空から満月が顔を出していることに気がついた。先ほどまでの小雨で雲が月を隠していたが静まり返った夜空にくっきりと姿をあらわした満月はまるで物いいたげに笑っているようにも見える。
雷猫・サンダー「(-----新人がくるわけない、か……)」
その頃、意を決して夜道を走り出す無双は休みなく走っている。だが、無双の中では感情が停止していた。蔡が片目に撒きつけていた包帯を自らの右手に巻きつけて走っている無双の顔にはもはや表情と呼べるものはなにもない。
十文字(無双)「(死からなにも生まれない…誰も救わない)」
謎の声(男)「死ハウマレルマエノカタチニモドルダケダ…」
十文字(無双)「(………)」
無双の疲労した足が地面の草にからまってつまずく。すりむいた足も、打ちつけた頭も、なにも痛みを感じなかった。再び立ち上がると服についた土を払うこともせずまた走り出す。まるで、そうしなければ壊れてしまいそうで。また、涙が溢れ出しそうで。
十文字(無双)「(満月……)」
無双の見た空にも…満月がはっきりと見えた。

十文字(無双)「生まれる前の形に戻るだけ…シンボルストーンもそうなのか…」
謎の声(男)「シンボルストーンハ物質デハナイ、精神カ魂カワタシニモワカラナイ…タダヒトツイエルコトハ、オマエガシンジルカシンジナイカデシンボルストーンハ『有』ニモ『無』ニモナル…」
無双は父が火葬され、骨となったときのことを思い出した。白骨と化した父をただ呆然と立ち尽くしてみていた。魂だの精神だのその時は考えて見なかった。あるのはただ、小さな骨だけだと…。
謎の声(男)「ナゼ、オマエガ父ノコトヲオモイダシタノカ…オマエノ心二父ノオモイデガアルカラダ…ソレスラキエウセタトキ、オマエノ父ハホントウニシンデシマウ…」
十文字(無双)「…そうかもしれない」
月だけが普遍の存在で地上の限りある命を照らしている。月明かりの明るい道に無双の影だけがただ背後に長く伸びていた。
十文字(無双)「(父が今の自分を見たらどう思うだろうか?)」
蔡を助けられなかった不甲斐なさを叱るのか、それとも…」
十文字(無双)「……!」
無双が走りながら自問自答していると目の前には朽ちた線路が道のど真ん中に横たわってた。そういえば蔡は汽車の音が聞こえるといっていたがこの線路はどう見ても使われているようには見えない。だが、線路の隙間に見覚えのあるものを見つけた。」
十文字(無双)「これは、坊ちゃんのもっていた金時計。と、いうことはこの線路を通ったのか?」
時計は雨が降ったにも関わらず綺麗に輝いていた。だとするなら、サンダーがこの道を通ったのはまだ間もないんだろうと予測する。この方角は滝があるからサンダーは一緒に連れて行かれた可能性が高い。
十文字(無双)「助けられるか…いや、やらなくては…」
金の鎖は正確な時を刻んでいた。動き出した時間はもはや誰にも止められない、振り返ることは出来ても戻る事はできない。無双は時計を握り締めると再び勢いをつけて走り出した。サンダーのいる場所に…


雷流丸「けっ、キカン気だけは一人前か…」
雷流丸は憎憎しげにサンダーを睨む。サンダーはその場にうずくまっているのが精一杯だった。雷組での強盗騒ぎもこいつの仕業なのかと薄々と感じていた。
雷猫・サンダー「このまま、お前の思い通りになると思っていたら大間違いだ…」
効果音「ドカッ」
雷流丸「その眼!てめえの親父も同じような眼をしていた!!」
雷流丸は反抗的な態度にでるサンダーを足蹴りにする。サンダーの服は男の靴で汚れ、手や足にはいくつもの痣ができていた。
効果音「ドカッドカッ」
雷流丸は全身を赤と黒を主とした着物を身にまとい、サンダーは蔡も赤と黒の服を着ていたのを思い出した。ただ、違うのは男の服は派手な黒の刺繍が袖口にほどこされていて見た目にも豪華な服だという事。身長は大きく、父親とは同じ年齢に見えるがしゃがれた声が男を老けさせている。
雷猫・サンダー「(それに…あの目)」
男の片方の目が抉れたように潰れている。それが男をより醜悪なものに見せていた。
雷猫・サンダー「…お前の…目的はっ!」
雷流丸「はっ、てめえがそれを知ったところでどうなる?」
怒気を含んだサンダーの声が雷流丸にとって痛快らしく噴出し笑をしてさらに小さな体を転がす。――悶絶の痛みの中でサンダーは目を閉じて痛みに耐えた。
雷流丸「糞生意気なガキだ。命乞いぐらいしやがれ!」
雷猫・サンダー「誰がお前なんかに…敵に背を向けたら負けだとうちの父ちゃんが…」
雷流丸「そいつの話をするな!虫唾が走る!!」
効果音「ジャキン!」
なかなか弱音をはかないサンダーに痺れを切らしたのか、雷流丸は懐の刀をゆっくりと抜いた。足でサンダーの体を押さえつけながら、刀の先はサンダーの目に向いていた。
雷流丸「二度と減らず口を叩けないように目玉を抉り取ってやる!」

鋭い刃先がサンダーの目に降りてくる、が直前で雷流丸は動きを止めた。後方から声がする。
十文字(無双)「貴様に傷つけはさせない!」
サンダーはその声を聞いて身を乗り出した。フジの花の下で、その声は確かにサンダーが知っているものの声だった。その声は…優しく、それでいて力強いがどこか痛々しささえ感じさせた。
雷猫・サンダー「…新人っ!」
不確かな影にサンダーは意を決して声をかけるとその影は問いかけに答えるように明確に月明かりの下に姿を晒す。
十文字(無双)「ハァ…ハァ…」
無双の上着は破けて服は半分血に染まったように赤黒くなっている。目を凝らして見ると、彼はドロだらけで息を切らしながら目だけは戦闘意欲を失わずに明かりの中に佇んでいた。
十文字(無双)「(よかった。無事だった……)」
3人の間に張り詰めた空気が落ちる。サンダーの傍にいる男は背も高く、無双やギン以上に長身だ。がっしりとした体格に顎にはびっしりと鬚が覆っている。それになによりも…目を見て無双は雷流丸だというのを無言のうちに悟った。
雷流丸「てめえは誰だ?雷組の社長はどうした!」
十文字(無双)「社長はここには来ない…お前が社長に恨みを持っているのは知っている…代わりに私が来た!」
雷流丸「若造が生意気言うなあ!!」
十文字(無双)「パーフェクト・トランスフォーム・ウェポンパワー、ライドオン!」

だが、その叫びは空しく闇に溶け込んで消えてしまう。なぜなら、先程まで出せた剣も無双がどんなに願ってもでてこないからだ。その場に無双は凍りついた。
十文字(無双)「そんな……まさか…」
雷猫・サンダー「逃げろっ!逃げるんだっ!!」


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