第4章・第13話「疑念、再燃」

「シンボルストーンを武器に変えることはかなりの体力と精神力を必要とします。ましてやパーフェクトトランスフォームを長時間保つことは至難の業です…シンボルストーンを酷使すれば生命に危険を及ぼします……。」
効果音「ポチャンッ…」
「けれど…呼吸を整えればほんの少しの時間は延ばせます。生命にも危険は及ばない程度に持続できるでしょう。…そう、あの雨音のリズムを覚えてください。」
効果音「ポチャンッ…、ポチャンッ…」
十文字(無双)「雨の雫ですか?」
「精神を一定に保つには邪念を捨ててリズムで感情を形に変えるんです。リズム法といいますが、短期間で習得するにはこれしかありません。まずは…」
蔡は周囲を見渡し、バケツを拾ってきた。なにをするのかと思えば試合場にいくつかバケツを置いている。そのバケツが雫を受け止め、楽器のように雨がバケツを鳴らし始めた。
「この中で自分のリズムを探してください。…探し出したらそのリズムにあわせて精神を集中させてください。他の音には気をとられないように…」
効果音「ポチャンッ…、タタンッ……ポチャンッ…、タタンッ……(雫がバケツを叩く音)」

雨の雫が一定のリズムを刻みながらバケツを叩く。ブリキやプラスチックなど素材が違うものが混じっており、音はそれぞれ異なる。
十文字(無双)「(この中から自分のリズムを掴めと言うのか…)」
無双は複数のバケツからひとつを選び、目を閉じて、その音に耳を傾け始める。」
効果音「ポチャンッ…、タタンッ……ポチャンッ…、タタタタン…」
試合場の割れた窓からは手を両手に組み、祈りを捧げる少女の像が見えていた。外では雨にずぶぬれになった石像の頬に涙のように雨が降り注ぐ。時折破れたカーテンが風でゆれるとバケツの水音も微妙に変化するのを無双は感じ取った。
十文字(無双)「(水音は絹糸のように繊細で…それでいて自在に変化する)
はっと大きく目を見開き、無双は手に焼ける様な熱を感じた。
謎の声(男)「解き放て…」
電流が走るような痛みが全身を覆うとあの時聞こえた謎の声がまた聞こえてきて無双は不安になる。この力が暴走しそうな、制御できないかのように増量していくのがわかるからだ。」

「(いくら力があってもコントロールできないのなら使えない)」
眉を寄せて蔡はじっと手出しをせずに無双を見ている。蔡の中では無双を連れて行く事が任務だった。それから後でどうなろと知ったことではない、そう思っていた。だがこんなにも助言ずるのは可能性が見たいのかと自問自答する
「(…魂カガヤケ、声ヲキケ、魂ノ音ヲ聞ケ、シンボルストーン。誰かがそういってたな…)」
効果音「ヴォオオオオ…ン…」
眩い光がやがて形あるものへ変化すると無双は自分の中に眠っていたものを引きずり出されるような開放感を感じた。そして…


十文字の父「(無双だ…ふたつとない…いい響きだろう)」
十文字(無双)「(この声は…!)」
無双の耳には生前の父の声が聞こえたような、そんな気がして手を見下ろすと手の中にはいつのかにか刀が握られていた。全身にひんやりとした汗をかいて思わずその寒さに震えると蔡は無双に言葉をかける」
「よくできましたね…次に出す時は声を発して自分自身に呼びかけるように。あと、肩の力は抜いてください。それがリズムです。」
おぼろげに聞こえたあの声はなんだったのか、手に握られた剣を見ても答えは出ない。蔡は優しく微笑みながら無双の肩を叩く。
効果音「ポチャンッ…、ポチャンッ…」
「じゃあさっそく。その刀で私を攻撃してみてください。」
十文字(無双)「…手加減しなくてもいいんですね?」
「ええ、もちろんこちらも本気で行かせていただきますから…。」
ナレーション「そういいながら蔡も自分のシンボルストーンを上に掲げた。そして、通る声であの呪文を唱えた。」
「パーフェクトトランスフォーム、ウェポンパワー、ライドオン!」

一瞬の光の間に蔡の手の中には光り輝く銀のライフルのような武器が出てきた。無双は蔡が飛び道具を出してくるとは思わなかったので呆然としていると蔡が攻撃を仕掛けてくる。
「本気でいきます!」
十文字(無双)「ちょ…ちょっと待ってくださいっ!!」
「どうしてですか?敵は待ってくれませんよ」
十文字(無双)「剣とライフルでは勝負になりませんっ!」
走ってくる蔡に無双も走りながら逃げると蔡はにっこり笑って「大丈夫です」と答えた。そっちこそその武器なら黒犬を倒せたんじゃないかとつっこみたくなる無双だった。
「この武器は『ジ・エンド・オブ・ガン』……あまり人に見せたことないんです。なにしろ私も最近出せるようになりましたからね」
そういいながら蔡は無双に標準をあわせて構えている。無双は震えながらも水の音を思い出そうとしていた。
十文字(無双)「(落ち着け…剣のほうが動きは速いんだ…)」
効果音「ズガアアアーーーーン!!」
無双に考える隙も与えず、蔡のライフルは発射された。無双はかろうじてよけたが、地面には巨大な穴が開いていた。
「このままでは蜂の巣になってしまいますよ?」
蔡のほうは余裕で次の攻撃を仕掛けようとしている。ドンと床を破壊する破裂音は天井まで届いたようでいくつかの壁が剥がれ落ちてきた。無双は低く身構えて体勢を整えようとするが…
十文字(無双)「(…逃げる時間があるなら攻撃するほうが早いかもしれない)」
蔡が次の攻撃を出す前にはほんの少しの間があった。それは時間にするなら0.5秒。すなわちその時間内には蔡は攻撃を仕掛けられないことに無双は気がつく。
十文字(無双)「(黒犬を攻撃しなかったのは隙ができるからだ…)」
効果音「ポチャンッ…、タタンッ……ポチャンッ…、タタタタン…」
水音のリズムと同時に蔡の足音も近づくのを察知すると無双は蔡のはるか頭上をジャンプした。
「なっ!」
十文字(無双)「今度はこっちから攻撃しますっ!」
蔡の背後に回るとすかさず力任せに剣を振り背中を狙う無双。だが、蔡はすれすの距離で避けた。無双の動きは見切られているかのように。
「(目の付け所は間違ってはいない。だが、あと何かが欠けている…)」


十文字(無双)「(剣の切っ先は届いているはず…足りない…何が足りないんだ)」
寒い外気が2人の間を通り抜けると無双は焦っている自分に苦笑した。あの時、坊ちゃんを助け出すと言った時、誰もがお前には荷が重過ぎる、出来ないと言ったことを思い出した。皆が真剣になって非難をする中で唯一ギンだけが許してくれたのだ。それにこたえなければならない。
十文字(無双)「(…水、そうか…流れのままに)」
無双は再び構えなおすと距離を置いて蔡と向き合う。水の音、それは無双の心の中にもあった。無双は落ち着きを見せて蔡に視線を投げると凛とした声が試合場に響いた。
十文字(無双)「必殺、雷光斬(らいこうざん)!」
効果音「ザアアアアアーーーーーッ!!!」
無双の立っている床から亀裂が走るとそれと同時に細かい火花が散った。それが合図だったかのように無双は蔡の正面から攻撃を仕掛けてくる。蔡が無双の姿をスコープで捉える前に、より早く。
効果音「キィィイイイン…!」
先ほどとは違う無双の動きにぎょっとして思わず声をあげそうになったが…まじかに迫ってきた剣を蔡は銃で受け止めて2人は一歩も譲らずにらみ合う。やや、蔡のほうが無双に押され気味のように見えたが無双が力を少しでも抜けば押し返されるだろう。
「無双さん、私にもシンボルストーンがもたらす力がどこからやってきて、何故発生するのかわかりません。力のないものがある日、強大な力を得る…それはよくある話です。神秘思想とも呼ばれています。」
十文字(無双)「いきなり……なにを」
平静を装っていたが戦闘中に解説するとは思っていなかったので無双はどう答えて言いか判らない言葉が口からこぼれた。
「私も研究しようとしていました…雷組に入ってから書斎でいくつかの書を読みましたが答えはありませんでした…でやっ!」
絡めていた剣を振りほどくように蔡は無双の刀を押し返す。いきなりの反動についていけない無双の体が壁に叩きつけられるのを見て蔡は苦々しく笑った。
「無双さん、今の貴方は不安定だ。私を殺す覚悟で来てください。」

十文字(無双)「なんですって!」
「シンボルストーンを操れるのは持ち主の理性があって初めて出来ます。しかし、巨大な力を持つものほど理性が壊れ、暴走してしまう危険が高くなります。」
十文字(無双)「……!」
「その力に溺れ、心を食われてしまった者を私は知っています…雷流丸もそのひとりなのです…あの男は自分が強くなりたいばかりに…」
十文字(無双)「……だから殺す覚悟ですか?」
「殺さなければ犠牲者が増えるだけです。私も貴方にとっての敵になるかもしれません。」
十文字(無双)「それは…どういう」
首を傾げて不審な視線を投げると蔡は無双の問いには答えてはくれなかった。容赦なく攻撃体勢に入ると壁にもたれて倒れている無双に穏やかに微笑む。
「(殺してくれたら解放されるんだ)」
誰かに解放されたがっているのは…あの男にもっとも復讐を願っているのは誰よりも自分自身だから。
十文字(無双)「ぐっ……(体を起き上がらせてよろよろと立ち上がる)」
無双は蔡もまた、なにかに囚われたままだということが判った。水の音。それは実のところシンボルストーンが放つ心の流れだろう、と。
十文字(無双)「(最初から…誰も殺す気はない)」
無双はぎりっと唇を切れるほどにかみ締めるとナイフのような鋭い目でそこに雷流丸がいるかのように一点だけをにらみつけた。
十文字(無双)「(私が止めなければ、あの男は坊ちゃんに手をかけるかもしれない…強くなりたい…己の弱さに打ち克つ、強い心を!!)」
謎の声(男)「(ツヨクナリタイカ…?)」
あの声がまた無双の頭をこだました。最初はこの声を聞いたときは不安で押しつぶされそうになった。だが、今は彼にとって心強い味方になろうとしている。


「貴方が本気を出せるようにいいことを教えてあげます…そう、鬼江さんのことですけど」
十文字(無双)「?」
「黒犬達があの洞窟まで集まったのが偶然ではないとしたらどうしますか?」
十文字(無双)「ま…まさか……」
ここまで来て、蔡に対しての最初の疑心は薄れかけていた無双だった。だが…
「鬼江さんの事故は偶然ではなく私が起こしたものです。あのとき、鬼江さんが飛び出したのを制止しなかったのは私。そして最期に黒犬にわざと居場所を教えたのも私です。」
驚きましたか?となんの感情も込めずに淡々と語る蔡を、無双はただ黙って肩を震わせながら剣をきつく握り締めている。顔は俯いたままで表情は見えないが蔡の言葉に心底怒りをあらわにしていた。
十文字(無双)「…嘘だと言ってください…これまで蔡さんは、私を…助けてくれたじゃないですか…それを、どうして…っ」
「その感情のままに…戦えばいいんです。」
無双の痛々しいまでに怒りに震える声に、蔡は少しだけ淋しく目を伏せる。

効果音「ギリギリギリ…」
無双は顎が痛くなるほど歯軋りをしていた。裏切られたという無念の思いが胸に渦巻いていた。再び、亡き父の声が頭によぎった。」
十文字の父「何もかも疑っていれば、自分の身は守れるかもしれない。だが、心の澱はどんどんたまっていって、不信で心を蝕んでしまう。たとえ最後は裏切られることになろうとも、自分が望んだことなら後悔はしねえ」
この時、無双は訝しげに父の顔を眺めていた。父は無双の問いに対して、ただ、笑顔で返していた。悪い奴でも信じられる?そんなバカな。無双はその時はそう感じていた。」
「さようなら……(銃を向ける)」
ゆっくりと風が吹き抜ける試合場で蔡の静かな囁きは無双の耳にも届く。」
効果音「―――ズガァァァンン……(銃声)」


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