第12話「罪と罰」

効果音「ザッ、ザッ、ザッ…」
周囲の熱い声援に囲まれ、ゴロは試合場に向かった。面の向こうから相手の顔をのぞいてみる。顔ははっきりと分からないが、相手が対抗意識を燃やしているのはありありと分かる。
ゴロ(サンダーの父)「(集中しろ…)」
自分に言い聞かせるように前に脚を踏み出す。全身に神経を集中させて相手の姿を捉えたるとかすかに息をすう。ゴロが剣をもった理由は小柄な自分でも体格を気にせず自信を持たせるように祖父が勧めてくれたからだった。それまでの内向的だったゴロの性格は祖父によって矯正された。
ゴロ(サンダーの父)「(だけど卑怯な手は使わない、それは弱さだ)」
剣は心なり、心正しからざれば剣も正しからず、剣を学ばん者は心を学べ…ゴロの祖父が読んでくれた小説にはそう書いてあった。ゴロはその言葉が大好きだったから剣を持った、だから余計に許せない。
審判「只今から稲光中・雷流丸と雷鳴中・ゴロの試合を始めます…!」
効果音「ワアアアアーーーーーッ!!」

ゴロ(サンダーの父)「(ただ、全力を尽くすのみ!)」
踏み出した足はゴロのほうが早く振り下ろした竹刀は音を立てて相手の竹刀と交わった。にじり寄った相手の顔はゴロのまじかに見える。」
雷流丸「(消えろ、消えてしまえ)」
ナレーション「ふいに背筋がぞくっとするとゴロは一旦相手から離れて距離を置いた。あの試合で見た時と同じ言葉を呟いていたからだ。」
雷流丸「(……?)」
急に離れたゴロの姿にいぶかしんで雷流丸は一瞬ばれたのかと思った。だが目の前の相手がもしそれを知っていたとしても証明することはまず不可能だ。雷流丸は一筋縄ではいかない獲物を嬲り殺すような楽しさにニヤつきながら自ら攻撃を仕掛けた。
ゴロ(サンダーの父)「(こいつ……殺す気か?)」
消滅の言霊。聞き間違いかもしれないがゴロには禁断の魔法として本で読んだ事があるが、雷流丸からは殺意しか感じられない。
ゴロ(サンダーの父)「(最低だ…っ)」
効果音「バチイッ!!」
突然、ゴロの右腕に痛みが走った。思わず竹刀を落としそうになった。竹刀を握る手に力が入らない。
ゴロ(サンダーの父)「(な、何をしたんだ…?)」


ゆっくりとと生暖かい液体が腕から染み出てくる。ゴロはいつのまにか腕を切られたかのような激痛に襲われていた。
ゴロ(サンダーの父)「くっ……」
一瞬の動きを止めたかのように見えた雷流丸はとどめをさそうとゴロに向かって攻撃を仕掛ける。だが……。
ゴロ(サンダーの父)「ぐっ……おおおおおおおっ!」
勝利を確信した雷流丸が油断した時、ゴロは力の入らない腕をまっすぐに雷流丸に向かって力の限りの一撃を加えた。それはあっという間の出来事で、その場にいた者が息を呑むような華麗な剣さばきだった。
効果音「…ドサアッ」
審判「…はっ…い、一本!!」
しばらくの間のあと、審判は目の前に立ち尽くしている雷流丸に気がついた。雷流丸は自分が一本を取られたことにまだ納得がいっていないようだった。
雷流丸「…審判、どこに目をつけている…?この俺が一本を取られたと…?」

ゴロ(サンダーの父)「…お前は卑怯者だ。正当な試合に魔法を使って勝とうとした……そんなものに負けるわけにはいかなかった…」
審判「?それは一体どういう意味ですか?」
ゴロの呟きを審判は聞き逃してはいなかった。怪我をしたゴロに駆け寄ると彼の体を支え、言葉の意味を問う。ゴロは負傷した腕を押えながら審判に話す決意を固めた。
ゴロ(サンダーの父)「…それは…っ彼が、これまでの試合で卑劣な行為をしてきたからです。この…腕の怪我を見てください。」
大勢のギャラリーの前で腕をまくるとそこには魔法でしかできない傷跡があった。十字に刃物で切った跡は赤黒くにじんで焼けたような痣になっている。
審判「これは禁断の魔法のひとつ「糾十字剣」!」

青ざめた審判が急いでゴロを医務室まで運ぼうとするが、ゴロは制止して話を続けた。
ゴロ(サンダーの父)「…この魔法を使ったものには罰が下る…それはやがて自分にもかえって来る事になる!」
雷流丸「ええい、黙れ!」
雷流丸は修羅のような形相で丸腰の状態のゴロに襲い掛かってきた。勢いあまって審判が前のめりに倒れた。ゴロは審判を守るために上に覆いかぶさったその時だった。
ゴロ(サンダーの父)「(腕が勝手に……!)」
ひゅんと空を切ったように剣はゴロの意志に関係なく動く。そして腕は軽くなりまるで剣自身が意志をもったかのようにゴロを導いた。剣を持っていた腕はゴロを守るように雷流丸を攻撃する。だが、周囲から見ればゴロの意思でそうしたかのように見えた。
雷流丸「ギャアアアアッ」
ゴロはそこまでするつもりはなかった。ただ…卑怯な男を倒したかっただけだった。
ゴロ(サンダーの父)「…あっ…ああああっ!」
突然、ゴロを操ったかのような力はなくなり、ゆっくりと剣が床に落とされると場内はシンと静まり返った。
雷流丸「目が、俺の目がっ!!畜生っ!うわぁぁぁぁ!」
効果音「ガシャーーーーアアア…ン!」
雷流丸は右目を押さえながらうめき苦しんでいた。手の間から赤い液体が滴り落ちている。
審判「ひい…ひいいいっ!」


効果音「…ッ…ピチャッ…ピチャッ(水がはねる音)」
雨の雫が窓を微かに叩くと外は本降りになった。ゴロの話を聞いていたギンは目を閉じたままゴロの話に耳を傾けていたが雨に気がついて顔をあげた。
ゴロ(サンダーの父)「それから雷流丸は失格になって試合はやり直しになった。同級生達は後から来てその場にいなかったからこの事件を知っているのは隣町のごく少数に限られている。噂では流れたみたいだが・・」
話しながら思い出したかのようにゴロは腕を押さえると苦悶の表情で雨に濡れた窓を見ている。窓からは大粒の雨と雷が地上に降り注がれていた。
ギン(十文字の上司)「噂では社長が正義をもって成敗したとか武勇伝のように語られていますよ。」
事実、そうだったのかもしれない。そして試合の後で知ったことだがトイレで出会った男は雷流丸の父親だった。ゴロは本当に自分のした事が正義とは言い切れないもどかしさをずっと抱えていたのだ。
ゴロ(サンダーの父)「…正義か。その言葉も己の罪を正当化したように言われてるようで内心では嫌っていた…いや、忘れたかったのかもしれないな」
ギン(十文字の上司)「…社長」
ピカリがそっと駆け寄ってゴロの肩に上着をかけるとゴロは淋しく笑って妻の手を握る。その手は冷たくなっていた。
効果音「ザアアア……」
十文字(無双)「…はっ…」

「どうしたんですか?無双さん…」
ゴロが過去の話を語り終えた頃、無双と蔡は廃墟になった試合場で休んでいた。夜まで残り数時間。それまでに雨がやむだろうとここで休憩することにしたのだった。
十文字(無双)「いや、何か『気』を感じたんです。この場所に……」
高い天井は所々崩れてきそうな程に痛んでいる、と同時にたまに雨水が漏れているのか雫の音が一定の速度で落下する音があちこちから聞こえていた。無双はかつては試合会場だった場所の真ん中に立って神経を集中させるとしばらく感慨深そうに天井を見つめていた。
「さっき話をした場所ですよ」
十文字(無双)「……ここにはまだ思念が残っていますね。かつて敗れた者たちの強烈な思念が…」
ゴロが話していた頃、蔡も無双にあの試合の出来事を話していた。ゴロほど詳しいものではなかったが、無双はその場に立って雷流丸の気持ちを知ろうとした。何か無双にも判らない悲しみや憎悪が胸に入り込んできて息が苦しくなる場所だ。何故かはわからない。ただ誰かの気持ちがここには残っている。
「無双さん、雷流丸と戦う前に私で練習しませんか?」
蔡の言葉に冗談かと思った無双だが彼の目は真剣でそれを見た無双は言葉もなく深く頷いた。
「無双さんが黒犬に襲われた時、刀を自分で出しましたね…?」
十文字(無双)「ええ…はい」

「初めてだから気がついていないと思いますが、それは無双さんの魔力を具現化したものです…我々はそれを『シンボルストーン』と呼んでいます。普通は鉱石のような形になって現れますが、それを更に進化させたものが『パーフェクトトランスフォームウェポン』といいます…」
雨音しか聞こえない場所で蔡の済んだ声が響いた。蔡が手の中からまぶしい程に輝くシンボルストーンを出すと無双は驚いてその輝きを凝視する。それは薄暗い試合場で無双の顔を照らすほどに明るい。
「無双さん、私にできることといえば貴方の力を引き出すのを手伝うぐらいです。貴方が本気を出せば、きっと…あの黒犬すべてをなぎ払えたでしょう。」
十文字(無双)「…鬼江さん」
ポツリと無双が呟く。さっきから忘れていたわけではなかったが自分に力があればあんなことにはならなかった。力もないのにギンの前で強がって、結局は足を引っ張っている。そんな自分の不甲斐なさを無双は感じていた。
十文字(無双)「ギンさんの前で、坊ちゃんを連れて帰ると約束しました。だけど、今になって自分の力を信じられない。さっきのだって偶然かもしれません。」
「……今の言葉、鬼江さんが聞いていたら悲しみますよ『私の無双ちゃんはそんなこと言わないわ』って。貴方を信頼しているから庇ったんじゃないですか?」
弱気になっていた気持ちに蔡の言葉は突き刺さるように無双を揺さぶる。淡々と語る蔡はさらに説明をはじめた。
効果音「ザァァァァァ……」


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