第11話「卑劣な力」

効果音「ザワザワザワザワ…ザワザワザワ…」
ゴロが電車に乗っている頃、稲光中学の一行は既に試合場に集まっていた。大人と見間違えるような体格の部員が肩をいからせて歩いている。
猫A「あれが稲光中の剣道部か…なんだかおっかねえな…」
他校の生徒が稲光の部員達を遠巻きで見ていた。その中にひときわ背が高く、眼光が鋭い男に周囲は視線が集まっていた。
猫C「雷流丸…少しは手加減しろよな。お前と対戦した相手はことごとく病院送りになっている…お陰でここの剣道部の評判も悪くなっているの知っているか。」
雷流丸「好きに噂してればいい。俺は気にしない、お前も気にしなければいい。」
猫C「お前という奴は……俺だけは友達だと思ってたが」
雷流丸「友達?誰が?それよりもみんなしけた顔してやがる。よわっちぃチビが多いなぁ〜」
軽く首を回しながら「雷流丸」と呼ばれた男はニヤニヤと周囲を見回していた。誰も敵なんていない、ここでは俺が一番だと雷流丸は思っていた。
「(兄さんなんか負けてしまえばいいのに…)」
ナレーション「会場から少し離れた場所で悪態をつく男の姿を見ていたのは黒髪の美少女…名前は犀(サイ)。雷流丸の妹だ。」
猫D「今年の優勝は雷流丸に決まりだな。お前、賭けないか?」
猫A「去年もその前もあいつが勝ったんだ。賭けにならないさ。」
見物人が今年の試合の予想をしてるが誰もが結果の見える試合だと話し合っている。それ位年々強くなっていった。」

ゴロ(サンダーの父)「あれが雷流丸…」
ゴロは遠く離れた場所から雷流丸の姿を見ていた。自分と並んだらまるで大人と子供、体格では到底かなわないだろう。雷流丸は確かに天賦の才能は持っていると思う。だが、ゴロはそれを上回る、血のにじむような努力をしなくてはならなかった。小さい頃からゴロは自分の体格にコンプレックスを抱いていた。
ゴロ(サンダーの父)「(凡人は天才を上回らないかもしれない。だが、何もしないで出来ないと決め付けることだけはしたくない。)」
猫B「今年で最後になるんだよな、雷流丸」
猫C「学年が変わるから、今年の試合で優勝したら推薦でいける学校も決まるだろ」
通行人は何人も通り過ぎていくがゴロはその場に立ち止まったまま動かない。
「す、すいません」
ゴロ(サンダーの父)「?」


「試合に出られる方ですよね…頑張ってください」
ゴロが声のする方を振り返ると長い黒髪の少女が初対面のゴロを応援してくれた。訝しげな顔をしてゴロは少女に尋ねようとする。
ゴロ(サンダーの父)「貴方は隣町の人なのにどうしてよそ者を応援するんですか」
「……」
犀はゴロの言葉に端正な顔を曇らせた。ゴロは他所の生徒を応援する人はいないだろうとは思っていたので、犀の言葉に戸惑っていた。彼女はしばらく考え込んだあと、ゴロのほうを向いた。
「あいつ…雷流丸はすごく強い奴のように思われていますが、みんなは買いかぶりすぎています…あいつは剣道を暴力の道具と勘違いしているんです。」
ゴロ(サンダーの父)「……?」
「もし、本当に剣道を愛しているのなら、対戦相手に大怪我を負わせるでしょうか…そんなのスポーツマン精神に反しています。」
ゴロ(サンダーの父)「…貴方は…」
少女は名前を尋ねようとしたゴロの手を掴んでしっかりと握り締めた。驚いて振りほどく暇もなくゴロはされたままになっている。

「勝って下さい…」
そのままゆっくりと手を離すと犀はその場を立ち去っていく。大きな瞳が涙で濡れているような気がしてゴロは追いかけようと思ったが教師に声をかけられ諦めた。
先生A「どうかしたの?さっき女の子と話してたみたいだけど。そろそろ試合が始まるみたいだから見物しょう。前の席に行こうか。」
ゴロ(サンダーの父)「先生…雷流丸の試合はこれからですか?」
先生A「君が順調に勝てば彼と試合できるかもしれない。まずは敵を観察したほうがいい。」
教師は人ごみをかきわけゴロを誘導しながら前の席に座る。ゴロは周りの視線を気にしながら教師の横に座った。
効果音「ザワザワザワ…」
審判「これから、稲光中学・雷流丸と雷電中学・志龍の試合を始めます…。」

中学生にしては雷流丸と同じく体格のいい少年が一礼する。ゴロは緊張しながら2人の試合を凝視した。
審判「礼!」
効果音「ザザッ」
審判の合図とともに両者は試合モードに入った。お互いの様子を伺っているが、どちらも隙がない。
雷流丸「(普通にたたかっちゃ勝てないんだよな…)」
口元をニヤリとつり上げると雷流丸は素早い速さで脚を踏み出し一瞬の動きで相手に近寄ると小声でなにかを呟いた。
ゴロ(サンダーの父)「……!」
ゴロはシンボルストーンを試合で使う卑怯な剣士の話を聞いた事がある。だが巧妙に使うので自己申告するまでは意外と発見されないケースが多い。ゴロは膝に置いた手を震わせながら額に汗をかいた。
ゴロ(サンダーの父)「(まさか…いや、ありえない)」
雷流丸はその後、何事もなかったように相手に攻撃をするがたった一撃で志龍は倒れた。
審判「…?大丈夫ですかっ!しっかりしなさい!!」
雷流丸「ハッ、弱いなぁ…」
鼻で笑うと雷流丸は倒れた相手には既に興味を失い背中を向ける。歓声と拍手で盛り上がっている場内で、ゴロはただ1人憤りを感じて立ち上がって雷流丸を殴りつけたい衝動を堪えた。

先生A「どうしたんだい?ゴロ君…?」
ゴロ(サンダーの父)「…?!な、何でもありません。」
引きつっているゴロの表情を見て先生はいぶかしげな表情をした。シンボルストーンのことを言えば雷流丸は失格になるかもしれない。しかし、シンボルストーンの力を見抜くことは普通の人にとっては困難であった。
ゴロ(サンダーの父)「(言っても信じてもらえないだろう…言ってもあいつはしらを切るかもしれない…)」
担架で運ばれた少年はぐったりとしたまま意識を失っている。あの一瞬の隙に力を使ったとするなら…至近距離の場合下手したら相手を殺すことになるかもしれない。スポーツの世界ではもっとも忌むべき戦法だった
ゴロ(サンダーの父)「先生…トイレにいってもいいですか。あとで着替えます。」


教師の言葉を待つこともなくゴロは立ち上がるとトイレに向かった。吐き気がする試合とはこんなことだ、とゴロは思っていたからだ。
効果音「ゴボボッ」
ナレーション「洗面台の水が流れるとゴロは口を拭いて鏡を見る。」
ゴロ(サンダーの父)「あんな卑怯な奴に負けたくない…っ」
ナレーション「ゴロは自分自身に言い聞かせてトイレの洗面台に拳をぶつけた。」
効果音「ジャアアアア…」
背後でトイレの水が流れる音がした。そして、ゴロの背後に突き刺さるような視線を感じた。>
猫F「お前、何か見たって顔だな」
男の声が背後から話し掛けてきた。驚いて振り返るとゴロを凝視している初老の男がいる。もしかして今の言葉を「聞かれた」んだろうか、とゴロは警戒した。
猫F「あいつの試合見たんだろ…?ありゃ試合じゃねーな。あんなの見る価値もない。」
ゴロ(サンダーの父)「あ…貴方も知ってるんですか…」
猫F「お前、試合でるんだろ?せいぜい頑張れ」
ナレーション「ゴロは呆然と黙り込んでしまう。さっきから変だった。あの女の子、そして見知らぬトイレの男。真実を知っているのは自分だけじゃないんだろう、と。」
ゴロ(サンダーの父)「(絶対に勝つ)」
…そうして、まもなく試合が開始された。


ゴロは順調に試合に勝ち進んでいた。初めての試合とは思えないほど相手を圧倒していた。相手はずっとゴロより大柄な男ばかりだが、ゴロには背の低さをカバーできるものがあった。
生徒1「何なんだあいつは…俺が面を取ろうとしたら目の前から姿が消えていた…」
相手が次の攻撃を出す前にそれを読み取る。ゴロはその能力が秀でていた。体格では適わない分、身軽な動きで相手を翻弄していた。
「(噂は本当だったみたいね)」
雷流丸はさっきからゴロにばかり拍手や声があがってるのが気に入らない。歯軋りをしながら八つ当たりのように犀の腕を引っ張った。
雷流丸「もし、俺があいつに負けたらどうする?」
「…笑うわよ」
普段からこの妹が自分を快く思ってないのは雷流丸も分かっている。ゴロのほうばかりを見て応援しているからだ。実際会場は隣の町のよそ者を応援するものが増えてきた。
「情けないわね……腕、放してよ。(腕を振り払って立ち去る)」
雷流丸「(笑う?お前が笑うなんてな…いつも俺の前では無愛想なお前が…)」
猫C「凄いな、あいつ!俺、雷流丸よりもあいつを応援するよ」
試合をみて興奮が冷めない観客は楽しそうにゴロの試合を語りだす。それが雷流丸の耳に入ってくるのはごく自然な事だ。やがてその数も増えていく。
先生B「今度の試合は分からないぞ…隣の中学のゴロという選手は小柄ながら、素質を持っている…。」
先生C「あの生徒なら剣道の強い高校は放っておけないだろう…50年に1人いるかいないかの逸材だ…。」
試合に出場している他校の先生までゴロに注目していた。当然、雷流丸は面白くなかった。自分を応援していたものが次々とゴロに関心が向いていくのが。

ゴロ(サンダーの父)「先生、次の対戦相手は…」
汗だくでタオルで顔を拭きながらゴロは教師の姿を探した。その時、偶然にも雷流丸と目があう。
ゴロ(サンダーの父)「(もしかして、あいつと?)」
2人の距離は遠いはずだったが雷流丸の背丈はやはり大きくゴロには存在そのものが大きく見えた。そして男はゴロに対して憎悪に満ちた視線を容赦なくぶつけてくる、それはまるで殺意のようでもあった。
雷流丸「(お前なんか立てなくなるぐらいズタズタにしてやるよ…二度とここにはこれないようにしてやる)」
効果音「バキッ」
雷流丸の持っていた竹刀が真っ二つに割れると、彼は竹刀を捨ててそのまま背を向けた。周りにいた皆が驚いて男の道を開けていくと控え室に向かったようだ。
ゴロ(サンダーの父)「(強さを見せびらかすのが本当の強さじゃない)」
眉間に皺を寄せてゴロは竹刀を強く握る。確かな感触を手に感じると不安は消えて自信が出た。

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