第10話「生まれゆく光」

雷猫・サンダー「(ここは…どこだ…?)」
その頃、サンダーは暗く狭い部屋に寝かされていることに気がついた。あの時、黒塗りの車に乗せられてハンカチを口に当てられ、そこからの記憶が途切れている。
効果音「グルルルル…」
力なく腹の音がしたとき、急に心細くなってきた。窓からもれるわずかな光でやっと自分の姿が確認できる。
雷猫・サンダー「(あいつら、誰なんだろう…?俺をいったいどうするつもりなんだ…)」
ふとサンダーは上着の内ポケットになおしていた金時計を取り出した。薄暗くて時刻なんて見えないのだが時計は時間を刻んでいる。サンダーはそれを握り締めると壁に耳をすませた。
誘拐犯1「……だから…ってるじゃないか。俺たちの…は終わっ…報酬を…ださい…よっ」
鮮明に聞こえるわけではないが壁伝いに外の音が聞こえてくる。この声はサンダーを誘拐した男だった。
雷猫・サンダー「(……?)」

効果音「ガシャーン!!」
誘拐犯3「…何だって、もう一度言ってみろ…?」
サンダーが自宅の前で会った誘拐犯とは別の声が聞こえてきた。何か陶器のようなものを足蹴にするような音の後、ドスのきいた不機嫌そうな声が聞こえてきた。
誘拐犯2「ひいいいいっ!」
その音に驚いたちびの誘拐犯は悲鳴を上げた。どうやらその男には頭が上がらないらしい。サンダーは壁に耳を当てて更に聞こうとする。
誘拐犯3「役立たずのてめぇらに飯を食わせてやってるだけありがたいと思え…あのガキはどうした?」
男の声がだんだん近づいてくる気がして、サンダーは震えながら床に落ちていた毛布を頭から被った。

効果音「ガタン、ガタタタタッ…(ドアを開く音)」
誘拐犯3「糞ッ…ドアをなおしておけといっただろうが!」
雷猫・サンダー「(…ギン、ギン助けて…)」
胸が苦しくて息が止まりそうなサンダーはここにはいないギンに助けを求めた。だが、不思議なことにその時無双の顔が浮かんでくる。ギンのほうが頼りになるのに何故かギンはここには来ないのではないか、そんな嫌な予感がしていた。
雷猫・サンダー「(これから勉強もする、言うことも聞くから…だから…、だから…)」
誘拐犯3「起きてるんだったら返事ぐらいしたらどうだ…?」
薄暗い部屋に光が差し込むと、狭い部屋の隅に小さく丸くなっている子供の姿が見える。震えて丸くなった姿は無力な子供の姿だ。男はにやりと見下ろすと無理やり毛布を剥ぎ取った。
雷猫・サンダー「……。」
誘拐犯3「フン、たぬき寝入りか…ま、ことと次第によっちゃ、永遠に眠ってもらうがな…」
サンダーは顔を床に押し付け耳を固くふさいだ状態だった。犯人が何を言っているのかは分からない。だが、自分の身が危険に晒されていることだけは嫌と言うほど思い知らされた。


十文字(無双)「坊ちゃん…っ」
草むらに寝転んでいた無双はついうとうとしていたが我に返って起き上がる。起き上がると、ちょうど無双の顔のどまんなかに蔡はよく熟れた果実を差し出していた。
「無花果ですよ。貴方がぐうぐう寝ている間にとってきました。戦士にも休日は必要ですからね。」
十文字(無双)「…ぐうぐうなんて、そんなに寝てません」
ムッとした無双は黙って果実を受け取ると大きく口を開けて齧った。甘く熟れた果実が口いっぱいに広がって汁が口の端から滑り落ちると少しは空腹が充たされたようで、また口に運ぶ。蔡も無双と同じように口に運んだ。お互い無言で食べてはいるが、無双は鬼江のことを尋ねたくて、それでも怖くて聴けなかった。
「…無双さんは風船猫フジの由来を知っていますか?」
草原に腰を下ろして3つ目の果実を口に運んでいた時、蔡は無双にそう尋ねた。
十文字(無双)「伝説の猫が咲かせた花だと聞きました。それ以外にもお話があるんですか?」
「ええ…これも雷流丸の息子から聞いた話なんですが…この話を聞いたときは涙が止まりませんでした…」
風船猫の伝説は種族によって伝えられている内容は少しずつ異なっていたが、主に次のようなものだった。」

「ここに住む雷猫一族とは異なり、風船猫は単独で生活するものが多い種族です。彼らは空を飛ぶ能力を持っていましたが、それ故に放浪を好む種族とされていました。」
決して風船猫は他の仲間と上手くやっていけない訳ではない。非常に心優しく、争いを好まない性格だった。あちこちで種族同士の争いが起こっていた頃、各地に散らばる風船猫はその地にたどり着き、争いを鎮めたという。

十文字(無双)「私はまだみたことがないんですが、本当にいるんですね…」
「ある時代、この町で生まれ育った兄弟がいました。けれど彼らは母親が違う異母兄弟です。兄は私生児で町からは認められない子供でした。そして兄の方は赤ん坊の時、実の母親から滝に落とされかけました。」
十文字(無双)「……」
「けれど赤ん坊が滝から落ちたとき、白い光が赤ん坊の体を包んで守るように、滝の脇の柔らかな地面にゆっくりと落ちました。赤ん坊の無事な笑顔を見た女は自分の間違いを悔いて赤ん坊を大事に育てるようになりました…滝の脇には風船猫の撒いた種が花を咲かせています。二度とこんな事件が起きないように」
十文字(無双)「赤ん坊は無事に育てられたんでしょうか?」
「…その話の先は私にもわかりません。」
無双の質問に急に表情を曇らせて蔡は黙った。そして果実を食べ終わると立ち上がる。
「風船猫はいますよ…それにその赤ん坊も、もし母親からその後憎まれて育ったとしても『風船猫に生かされた命』を大切にしたと思います…」
軽く背伸びをして無双も立ち上がる。頬を掠める風が強くなると足元の草も風の動きにあわせて揺れた。
効果音「ヒュウウ…」


一方、雷組ではギンたちが待機していた。ゴロもピカリも無双たちの連絡を待っていた。
ギン(十文字の上司)「奥さん、少しは休んでください…」
ピカリ(サンダーの母)「いえ、主人と皆さんが寝ずに待っているのに私だけが休むわけには行きません。あちらに向かった2人や息子の安否が気になります…」
ゴロ(サンダーの父)「…」
ピカリ(サンダーの母)「…あなた、例の件について皆さんにお話したほうが良いのではないでしょうか…」
ピカリの『例の件』と言う言葉にゴロは表情を固くした。それを見ていたギンはますます気になって仕方がなかった。
ギン(十文字の上司)「…やはり、雷流丸のことですか…。その名前を誰かが口にするたびに社長は怯えているようで…いったい、雷流丸との間に何があったのですか?」
ゴロは黙って立ち上がると壁に立てかけていた写真たてを手にもってギンに手渡した。時計が昼の時刻を告げ、ボーンと鳴り響く。
ゴロ(サンダーの父)「遠い昔の話だ…心のどこかに封じ込めたまま忘れようとした」
ピカリはゴロを見守っている。ゴロはそんな妻を一瞥すると再び言葉を繋げた。
効果音「コチコチコチコチコチコチ…(時計の針の音)」
写真には若き頃のゴロの写真がうつっている。皆は笑っているのに中心でトロフィーを持っているゴロだけが何故か沈んだ表情だ。ギンは色あせた写真を見てあることに気がついた。

ギン(十文字の上司)「…社長、腕はどうされたんですか?」
大きなトロフィーをもっているゴロの右腕は力なく垂れていた。心なしか顔色が悪く、やっと立っているような表情である。
ギン(十文字の上司)「…社長も怪我をしたんですか?」
ゴロ(サンダーの父)「この話を最後にしたのはいつだったか…妻が夢でうなされる理由を尋ねてきた時にこの話をした。あれは…」


猫B「ゴロ!明日の試合、ガンバレよ!」
猫C「女の子がいっぱい応援しにくるってきいたぞ。ゴロが優勝したらモテモテだ。」
クラスメイト達の半分茶化したような言葉で背中を叩かれながら成長期の少年達よりも小柄な少年はやや緊張した顔で「いってくる」とだけ挨拶した。それは少年時代のゴロだった。
ゴロ(サンダーの父)「(俺1人で隣町に行くのか…対戦相手はどんな奴だろう?)」
一応教師が連れて行ってくれるし、初めての汽車に乗るのは嬉しいが試合のことを考えると少し不安だった。隣町には強い奴がいるともっぱらの噂だったからだ。
効果音「ボーッシュシュシュシュ…(汽車の音)」
ゴロ(サンダーの父)「うわぁ…やっぱ早いな。(窓の景色を見ながら)」
初めて乗った汽車に感動して試合の事を忘れそうになった。教師とお弁当を開き向かい合わせで食事をすると気分は遠足のように楽しい。
ゴロ(サンダーの父)「先生、今日の対戦相手は…」
先生A「君も知っていると思うが、あの稲光中学の雷流丸も今日の試合に出場するそうだ。稲光はこの地区では屈指の強豪だが、雷流丸はその中ではずば抜けている…。」
その名前は先生や先輩から幾度も聞かされていた。噂では無敗を誇っていると伝えられている男であったが、ゴロは彼の姿や試合は見たことがなかった。
先生A「雷流丸の試合は一度見たことがあるが、まさに奴の姿は修羅だった…気迫が違っていたよ。」

ゴロ(サンダーの父)「でも、できるだけ頑張ります…明日みんなも応援に来るので…」
ゴロはさっきまでの浮かれ気分が途端しぼんだ気がして食べかけのお弁当に箸を置く。それを見た教師は慌てて元気つけるように声を和らげた。
先生A「落ち込むことはないよ。これまでゴロ君だって練習してきたんだ。少しは自信を持ちなさい。」
猫B「無花果はいりませんか〜(汽車の中を売り子が歩いてくる)」
先生A「あ、スイマセン〜!2つ下さい。(目の前にやってきた売り子を呼び止め)」
教師は笑顔で果実を手にすると一つをゴロに持たせた。
ゴロ(サンダーの父)「先生、いいんですか?」
先生A「いいよ。但し…、他の生徒には内緒だよ?」
雷流丸がどんな奴なのか、本当はゴロにとって不安が消える事がない。だからといって落ち込んでる姿も見せられないから教師の前では平静を保つことにした。


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