第8話「闇を纏うもの」

効果音「ホウ、ホウ、ホウ…」
ナレーション「ふくろうの声が聞こえる頃、無双たちはとある場所に集まっていた。既に精も根も尽き果てた表情の無双に蔡が声をかけた。」
「無双さん、大丈夫ですか?」
十文字(無双)「は…はい…」
ナレーション「蔡は鴉の羽を全身に身にまとい数珠を手にしている。彼らが集まったのは隣村にはいる手前にある神社の中だ。」
十文字(無双)「さっきのでまた気を失いそうになりました。」
鬼江「それよりも私たちもそのカッコしないと駄目なの?」
「隣町まで続く森の中にはいくつか仕掛けがあります。本来なら夜は通ってはいけないんです。鬼江さん達はマントをまとってください。森の神を刺激しないように黒を纏うんです。」
鬼江「神?」
「夜の神は目立つものを嫌います。アクセサリーをしていたら襲われて首をもがれますよ。」
ナレーション「鬼江は慌てて金のチョーカーを外す。蔡は目を閉じると無双と鬼江の額に呪文を唱えた。」
「(両手で2人の額に触れて)漆黒の闇でこの者達の光を覆い、我と共に歩む道を導きたまえ…」
効果音「ズズズ…ズズズズ…」
ナレーション「2人の耳には何かが忍び寄る音が聞こえてきた。何か生暖かい、でも、生き物とは違う何かが彼らの体を覆い始めた。」

「一つだけ注意してください。私の呪文は完璧じゃないという事です。一旦闇に覆われたら声を出してはいけません。」
十文字(無双)「(それはどういう意味だ?)」
鬼江「(もっとわかる言葉で喋りなさいよぉ)」
「闇は貴方達の生を消しています。つまり無です。私がこの森を抜けるとき夜の神が何度も私に声を出させるように誘惑してきました。自身の声を真似してきたり肉親の声まで真似して話し掛けてきたりするんです。それでも、決して答えてはいけません。」
鬼江「(もし、声を出したら?)」
ナレーション「蔡は黙ったまま神社を抜け、森の入り口まで歩き出す。もし、という質問は死を意味するのかもしれない、と無双は考えていた。」
効果音「ザッ…ザッ(3人の後ろからついてくる足音)」
雷猫・サンダー「おい!新人っ」
ギン(十文字の上司)「何処に行くんだ?」
十文字(無双)「(成る程…声も出したくなりそうなぐらい似てるな)」

桜(十文字=無双の妹)「お兄ちゃん…私をおいていかないで!」
十文字(無双)「桜…?」
「(無双さんっ!)」
ナレーション「無双が思わず振り返った先には桜はいなかった。その代わりその場に立っていたのは4つ目の真っ黒な犬だった。」
十文字(無双)「あ…っ(突然の事で足が動かない)」
鬼江「無双ちゃん…っ、危ないっ!!」


ナレーション「その場で一瞬でも早く動いたのは無双の傍にいた鬼江だ。口から酸を吐きながら無双に飛び掛ろうとする黒犬から身代わりになって自ら飛び込む。それはあっという間の事だった。」
効果音「グシャア…バキバキ」
ナレーション「ドサッと草むらに音を立てて鬼江が倒れると無双は愕然としてその場に崩れる。自分の不注意で鬼江の右腕は酸で半分なくなりかけていた。それでも黒犬は無双を狙いに定めて足で地面を蹴って飛びかかろうとしている。」
十文字(無双)「(私のせいで…鬼江さんが…!)」
効果音「ウウウウウ…ガルルルル…」
ナレーション「黒い犬の目は真っ赤に光っている。頭の中で『逃げろ』と何度も繰り返しているのに体が動かない。」
効果音「ガウウウアアアアーッ!」
ナレーション「犬が無双の頭上めがけて飛び込んできたその時、誰かの声が耳に飛び込んできた。それは初めて聞いた声だった。」
謎の声(男)「解放せよ…お前の中にある力を…お前の魂に潜む光を…解放せよ!」


ナレーション「低くよく通る声が無双の耳に木霊すると、無双の体が熱くなった。と、同時に骨が軋むような痛みが全身を包む。」
「無双さん!」
十文字(無双)「う…うおおおおおおっ!!」
ナレーション「夜の闇の中で無双の声が大きく震えると、静寂さに包まれて眠っていた鳥が騒ぎ出して飛び出す。そんな無双の姿を蔡は目を剥いて無双を見ていた。」
「(これは…一体なんだ?)」
ナレーション「これはさっきまで自分の前にいた無双なのか?と蔡は全身に寒気が走る。さっきまでの無双とは違う、言葉にはならない強大な力を感じたからだ。」
「(雷流丸…貴方の計算が狂うかもしれませんね)」
ナレーション「無双の手がどんどん熱を帯びて光り輝くと黒犬は目をやられたように地面に落下した。ズシっとしてしっかりとした感触が無双の腕に伝わるとそれは徐々に形になっていく。」

十文字(無双)「…これは、いったい…」
ナレーション「無双の手中に1本の日本刀が出現した。無双は真剣は持ったことはなかったが、まるで自分の体の一部のようになじんでいる。不思議と違和感がない。」
謎の声(男)「…それはお前の「雷」の力で創りだした刀…」
ナレーション「黒犬は無双に怯むように逃げていく。我に返って犬を追いかけようとしたが蔡に左手を掴まれ、阻止された。」
十文字(無双)「声が…」
「声…?なにか聞こえたんですか?」
ナレーション「地面を蹴りながら走っていく黒犬の足音が遠ざかると無双は青ざめて鬼江の倒れている所まで駆け寄った。」
十文字(無双)「鬼江さんっ…こんな…しっかりしてください!!」
鬼江「無双、ち…ゃん…よかっ…た」
ナレーション「酸で溶け出した腕は見るのも惨い有様だった。肉が裂けて骨が透けて見える。蔡は黙って鬼江の所まで歩くと錯乱状態の無双を引き剥がす」


「…鬼江さん、安全な場所まで運びますから貴方を置いていっていいですか…」
ナレーション「一瞬、言葉を疑った。こんな危険な状態で置いていけば鬼江が死ぬのは誰にだってわかる。なのに蔡は顔色一つ変えずに静かに尋ねた。」
十文字(無双)「そんなこと出来るわけない!そんなことしたら…」
効果音「ガシッ!」
鬼江「…彼のいうとおりよ…こんな怪我人連れて行ったら足手まといになってしまう…それに一刻も早く坊ちゃんを助けださなければ…」
「朝になれば私の飛ばした念の紙飛行機がギンさんの元まで届きます。今から6時間後に此処にくるでしょう。花火をあげれば早いですが黒神がまたやってくるかもしれない。」
十文字(無双)「…この傷が、6時間も…」
「朝だったら神が隠れていて安全です。…そんなに心配なら鬼江さんと朝までここにいますか?近くに洞窟があります。」
十文字(無双)「そうしてください。怪我人の安否が保障されるまで…傍にいたい。」
鬼江「…馬鹿」
ナレーション「草むらの影に隠れていた洞窟は広くて涼しかった。そこに鬼江を運び込むと簡単な傷の手当てをする。無双は自分の上着を破って鬼江の腕に巻きつけて止血をすると目をあわすのも辛いように顔を背けた。」
十文字(無双)「明日の夜までにつけばいいんです、鬼江さんは無理しなくても…」
鬼江「そ…んな無…責、任なこ、とい…な…て、許、い…から。」
ナレーション「さっきから上手く喋れないのか聞き取れなくなっている。壁にもたれた顔は薄暗くてよく見えないが月明かりは生々しく抉れた傷を照らしている。」
効果音「ザワ、ザワ、ザワワ…」

ナレーション「夜が途轍もなく長く感じる。今、自分の目の前を覆う闇が憎いとさえ思う。そう思ったとき、無双の耳にまた声が聞こえてきた。」
謎の声2「俺をかき消す鋭き光…消さねば…消さねば…忌まわしき白き光…!」
鬼江「無双…ちゃん…」
十文字(無双)「あ…はいっ(我に返る)」
鬼江「無双…ちゃん。この、間…の…お父んの話…聞かせてくれ…ない?」
十文字(無双)「この間の飲み会の話の続きですか…?いいですけど何故…」
ナレーション「緩やかな風は洞窟内に入り込んできた。洞窟の入り口では蔡が壁にもたれかかりながら侵入者が入ってこないように見張りをしている。」
「話をしてもいいですよ。私が入り口で結界を張りました。少し、話をしたら気が楽になるかもしれない。」
十文字(無双)「そんなに楽しい話じゃないかもしれませんがいいですか…?」
ナレーション「鬼江は黙って頷いた。無双に出来る事は今のところこれぐらいしかないのかもしれない、と思い泣き出しそうな感情を堪えてできるだけ明るい声で話し始めた。」
効果音「ポチャン、ポチャンッ…(洞窟の水が滑り落ちる音)」


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