第7話「お前って奴は」

十文字(無双)「まさか…っ」
ナレーション「素早く庭に置かれてた自転車に飛び乗ると車を追跡するように無双は走り出す。」
十文字(無双)「(それにしても、蔡とかいう少年。まるでこうなる事を予知していたんじゃないか?)」
ナレーション「黒塗りの車はどんどん小さい陰になっていく。それでも無双は全力で自転車を走らせた。」
効果音「チリリーン」
桜(十文字=無双の妹)「お兄ちゃんっ何処に行くの?」
ナレーション「無双の着替えを両手に抱えた無双の妹が前方から歩いてきて声をかけてくる。驚いて止まろうとしてバランスを崩し無双は電柱に激突した。」
効果音「ガシャーーーーーン!!!」
十文字(無双)「あたたた…」

ナレーション「無双は派手に電柱と正面衝突し、横に倒れた。自転車はその衝撃で前が若干つぶれていたが、気を取り直して再び自転車にまたがろうとした。」
桜(十文字=無双の妹)「お兄ちゃんっ!」
ナレーション「桜が無双の元まで駆け寄ってくる。白いワンピースが汚れるのも構わずに兄の傍に屈むと肩を支えようとした。」
ギン(十文字の上司)「…これは?(門の前に貼られていた血文字の怪文に気がつく)」
ナレーション「騒動で門の傍まで来たギンは血文字の怪文に目を止めると目を見開いて息を止めた。」
ギン(十文字の上司)「ムスコ・ユウカイ・カエシテホシクバ・カネヲモッテ・ヨルノハナ・サキミダレルチヘ・コイ・・・」
十文字(無双)「ギンさん…(悔しそうに拳を握って門を叩く)」
鬼江「ちょっと!なにがあったのよっ」
十文字(無双)「今から社員全員を広間に集結させるんだ…早く!」
ナレーション「今まで丁寧口調だった無双が初めて口調を変えて叫んだ。驚きながらも緊迫した空気に鬼江は急いで会社に向かう。」


効果音「ザワザワザワ…」
ナレーション「突然の集合に社員達は困惑していた。最前列の左端には今にも倒れそうなピカリがギンに支えられていた。」
ピカリ(サンダーの母)「ああ、坊や…」
ゴロ(サンダーの父)「…ギン、夜の花咲き乱れるの意味は解読できたのか?」
ギン(十文字の上司)「夜の花と言えば風船猫フジのことかと思われます。隣町の山向うは比較的暖かいので滝の傍に咲いているんです。伝説の猫が咲かせた花としてその名が付きました…場所は隣町・狩生の滝です。」
鬼江「今から2日後の満月の日に咲く花よ。真っ白くてふわふわ風に飛んで種を飛ばすらしいわ。」
「……(座ったまま目を閉じている)」
桜(十文字=無双の妹)「お兄ちゃん。ごめんなさい…あの時、声をかけたから…」
ナレーション「桜は無双の横に座って傷の治療をしていた。消毒液を脱脂綿に含ませて無双の顔につける。」
十文字(無双)「(責任があるとすればそれは自分自身だ)」
ナレーション「険しい顔で無双は広間に集まった人々を見ていた。犯人は部外者だったが、それでもなにかひっかかるものがある。」
「なにかいいだけですね、無双さん」
十文字(無双)「…あなたこそ…」
ナレーション「無双と蔡が睨み合う形となり、桜は2人の様子を不安げに見ていた。その緊迫した雰囲気が周りにも伝わったようで、他のものはそれを遠巻きに見ていた。」

「…私が隣町まで案内してあげます。山一つ向こうの町は特殊な道を通らなければ辿りつけません。今は封鎖された土地ですから、誘拐犯が通った道も当然彼らの力で封鎖されているはず。」
ギン(十文字の上司)「やけに詳しいな」
「私もあの道を潜ってここまでたどり着きました。記憶は曖昧ですが、少しだけなら思い出せます。ギンさんも行きますか?」
ギン(十文字の上司)「当たり前だ」
鬼江「ギンちゃん、私も行くわよ!」
ナレーション「ギン、鬼江が立ち上がると広場の中央に座っていたゴロが立ち上がろうとした。」
十文字(無双)「社長、今回の事件、すべて私の不注意から起きた事です。」
ナレーション「社長の前まで歩くと土下座のように頭を下げて床に手をつく。唐突な兄の行動に涙が出るのを桜は堪えた…無双の背中が小刻みに震えていたからだ。」


ゴロ(サンダーの父)「…頭を上げろ…お前ひとりが責任をかぶる必要はない…」
十文字(無双)「…?!」
ゴロ(サンダーの父)「お前、剣道部だったそうだな…あの、伝説の剣豪・雷流丸のことを知っているのだな…?」
十文字(無双)「…えっ?」
ゴロ(サンダーの父)「奴の無敗神話に土をつけたのは…奴の右目を失明させたのはこの私だ!!」
鬼江「で…でも、雷流丸は今寝たきりだって噂だったわよ。今回とは関係ないわ。」
ギン(十文字の上司)「(…やはり…そうか)」
「刀傷…蔵の前に刻まれた傷は有名な雷流丸の傷…社長はそういいたいんですよね?」
十文字(無双)「何故それを知っているんですか?」
「さぁ…?」
ナレーション「曖昧な返事をして蔡は無双から目を逸らしゴロを見た。社長としての威厳を捨て、息子を失った父親の顔を見ている。」
ギン(十文字の上司)「我々は隣町へ行きますが社長はどうされますか?我々の帰りを待つか、我々と共に行くか・・」
ナレーション「今冷静さを失っているゴロを連れて行けば犯人を刺激するだけだとギンは考えていた。できるなら連れて行きたくはないが、自分の息子の安否を待つのも辛いだろう。」
ゴロ(サンダーの父)「……」
ピカリ(サンダーの母)「あなた、こちらのことは心配ありませんから、もし行きたいのならそれに従います…」
ゴロ(サンダーの父)「出来れば私一人で犯人の許に行きたかった…私の過去の事で無関係のものに危害が及ぶのは許されることではない…。」
十文字(無双)「そんなことありません!サンダー坊ちゃんは将来、この雷組を継ぐ人…それに私を雇ってくださった社長に恩返しをしたいのです…。」
ナレーション「ゴロは無双の真剣なまなざしを凝視していた。眉の下からのぞいている鋭い目がわずかに動いた。」
ゴロ(サンダーの父)「私は一目見たときからお前の責任感の強さを感じ取っていた。お前なら将来、息子を支える存在になれると…。しかし、雷流丸がいるかもしれない場所にお前を連れて行くわけにはいかん…あの、雷流丸を侮ってはいかん…。」

十文字(無双)「いえ…侮ってはいません。私は、最初にここに来た時、坊ちゃんを見守ることを約束しました。一度言い出したからには私が責任を持って連れ戻します。それが本当の意味での私の恩返しです。気持ちを受け取ってください。」
桜(十文字=無双の妹)「やめてっ!!お父さんの次におにいちゃんが死んだらお母さんが悲しむよ…」
ナレーション「引き裂かれるような少女の悲鳴は桜だった。桜にとってはサンダーの家に恩も義理もない。だから兄が何故命がけで立ち向かうのかわからない。そうかもしれない…だけど家族を失うのは自分がよく知っている。引き離される気持ちも…だから。」
ナレーション「わかってくれ、と口が動いたが声にはならなかった。腕にしがみ付いてくる桜をゆっくりと引き離すとギンの元まで歩み寄る。肩に手をかけると耳元で話し掛けた。」
十文字(無双)「(蔡はもしかして犯人と通じているのかもしれません。だとしたらこれは罠でしょう)」
ギン(十文字の上司)「(罠だとしてもお前は行くんだろう?)」
十文字(無双)「(犯人の狙いは金品ではなく、社長です。ギンさんは社長の傍にいてあげてください。私と鬼江さんで行きます)」
ギン(十文字の上司)「(何言って…っ)」
十文字(無双)「(もしも危険になって助けを呼ぶ時は花火をあげます。その時は助けに来てください)」
ギン(十文字の上司)「(お前と言う奴は…)」

ナレーション「ギンは喉の奥から出掛かった言葉を飲み込むのが精一杯だった。父親を失い家族を養っていかなくてはならない彼の決意は痛いほど分かっていた。だが…」
十文字(無双)「ギンさん…私の父は笑顔だけは忘れないようにと私に言ってくれました。坊ちゃんは今笑顔でしょうか?…必ず私も、坊ちゃんも笑顔で帰ってきます。」
ギン(十文字の上司)「仕方ない。このお守りを持っていけ。」
ナレーション「ギンが懐から取り出したお守りは古びて所々糸がほつれている。赤い袋のお守りをしっかりと無双に手渡した。」
ギン(十文字の上司)「これは妹からもらったお守りだ。もしなにかあったら助けてくれるかしれない。あいつは優しい奴だったからな。」
十文字(無双)「だった…?」
ナレーション「何故過去形なのか尋ねようとしたが、ギンは無双の腹に拳を押し当ててにやりと笑う。」
ギン(十文字の上司)「社長、無双を信じましょう!こいつが真の男なら必ず約束は守ると信じてみましょう。」
ナレーション「周りはどよめいて、お互いの顔を見合わせる。あんな若造になにができるんだ、という声も聞こえた。」


ゴロ(サンダーの父)「……」
猫B「もしも、坊ちゃんの身に何か起こったら、あんた責任取れるのか?!」
猫A「ギンさんは何を考えているんだ…ここに入って間もない奴にそんな無茶なことを頼むなんて、どうかしている…」
ギン(十文字の上司)「…」
猫C「無謀じゃ!」
ゴロ(サンダーの父)「認めよう、ここで言い争っていても時間がない。大勢で行ったところであいつだったら皆殺しにするだろう。」
ギン(十文字の上司)「…勝手な判断ですいません。」
「そうですね…隣町の森にはいくつかのトラップがあります。少人数ならなんとか私の方も前もって指示ができますが大人数でいけば逆に相手を刺激するだけでしょうね。無双さんはまだ日が浅いから相手に顔も知れてないと思いますし。」
鬼江「私は知れちゃってるかもよ?」
ギン(十文字の上司)「お前は…その…ノーメークでだな…」
鬼江「化粧落とせって事?そんなぁ〜」
ピカリ(サンダーの母)「鬼江さんは私から見ても…その…十分…き、綺麗よ?」
ギン(十文字の上司)「(奥さん、噛んでますよ…)」
十文字(無双)「す、素顔…び、び。美人です!鬼江さんの素顔は…き、綺麗だ。」
ナレーション「無双は思いつく限りの言葉を並べ、鬼江を褒め称えた。そういっている彼はピカリ以上に噛んでいた…。」
鬼江「無双ちゃーん!!もう、あなたがいうなら喜んで素顔を晒しちゃうわー!大好きよー!」
十文字(無双)「うわあああああ、よ、寄らないでーーー!!!」
効果音「ドサッ、バターーーン、ドドドドド…。」
ナレーション「鬼江の巨体が無双の上にかぶさった…。興奮する鬼江を無双から引き剥がそうとゴロとギンが必死にしがみついていた。」


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