第2章・第5話「刀の傷」

雷猫・サンダー「新人!尻は痛くないか?」
ナレーション「食事をする広間で今日は新人の無双を歓迎する宴会の用意がされていた。みたこともない顔ぶれの大人たちに囲まれて少し緊張しながらサンダーの隣に座るとサンダーが元気よく訪ねてくる。大人達の笑い声に囲まれて無双は真っ赤になった。」
ギン(十文字の上司)「まずは、中央に立って自己紹介をするんだ…」
ナレーション「社員たちの拍手がわっと盛り上がると、背中を押されるように無双は中央にマイクを持って立たされた。のど自慢大会にでた気分だ、と無双は思う。」
十文字(無双)「…は、初めまして…」
ナレーション「無双はマイクを強く握り締めて突っ立っていた。部活では数々の剣道の試合をこなしてきたが、自分は緊張しやすいたちだと思っていた。既にマイクをもつ手に汗がにじんでいる。」

十文字(無双)「名前は無双と申します…家は八百屋町…雷神中学出身でございます…」
雷猫・サンダー「新人、声が小さいぞ!」
十文字(無双)「無双と言う名前ですが、私が生まれる前、父は丁度徹マン中でした…連戦連敗の父がその日は珍しく勝ちまして…ええと」
ナレーション「頭の中でできるだけ他人の興味を引くような話題を選んでいたつもりだった。が、皆は飽きてそれぞれの酒を酌み交わしている。」
ギン(十文字の上司)「うんうん、それから?」
ナレーション「無双の話を聞いていたのはギンとゴロだけだった。サンダーは眠いのか、目を何度も腕でごしごし拭いていた。」
効果音「パパパーァン!!(クラッカーの音)」
猫A「さぁさぁ飲みましょう!」
十文字(無双)「え?」
ナレーション「いつのまにか無双の周りに数人が集まって無双にグラスを持たせて飲ませようとする。まだ自己紹介もしないままに・・と無双はがっくり落ち込んだ。」
ギン(十文字の上司)「あーあ…やっちゃたな。こいつら、いつもこれだ…」
ゴロ(サンダーの父)「また日を改めて自己紹介させるか…」
雷猫・サンダー「あーあ…」
ナレーション「やっと静寂を取り戻した時、時計は既に12時を過ぎていた。酒やビールの瓶があちこちに散乱し、従業員は泥酔し眠りこけていた。」
猫A「グオーーーーッ、ZZZZZ…」


十文字(無双)「サンダー坊ちゃん?」
ナレーション「夢の中でサンダーを見失った無双は、起き上がってサンダーの姿を探す。だがどこにも見当たらなくて思わず廊下に出た。」
雷猫・サンダー「起きたのか?」
十文字(無双)「廊下にいたんですか…ここは寒いから早く寝室へ行きましょう…それは?」
ナレーション「サンダーの手元に光る鎖。それは金の懐中時計だった。無双に見られてさっと後ろ手に隠すとサンダーは…」
雷猫・サンダー「これは…盗んだんじゃないぞ!蔵の外に落ちてたんだっ…秘密だからな」
十文字(無双)「それ…いつ拾ったんですか?」
雷猫・サンダー「かっこいいだろ?刀傷で十字型に傷があるけど、まだ動いてるんだ」
ナレーション「廊下の月明かりに刺さるように金に光る時計はサンダーの手にあわせて揺らめいていた。無双は何故かその時、言葉にならない不安を感じたのだった。」

効果音「チュン、チュン、チュン…」
ナレーション「歯ブラシを半分口に突っ込んだサンダーは口ごもりながら無双に話し掛けてくる。その背後では腰にタオルを巻いた半裸のギンが大浴場へ向かって走っていた」
十文字(無双)「あの人は朝から元気だ…」
雷猫・サンダー「新人、今日も同じ服か?」
十文字(無双)「連絡したらあとから届けてくれると言ってました。それまではギンさんの服を借りますよ。」
雷猫・サンダー「そっか、よかったな。」
ナレーション「いつも子供にしては偉そうなサンダーだが、これでも少しは気にかけてくれているのかもしれない、と無双は嬉しかった。」
効果音「ザザーーーーン…バシャン…」
ナレーション「無双はギンにだいぶ遅れて大浴場に入った。服を脱いで戸を開けると既に従業員でいっぱいだった。昨晩浴びるように酒を飲んだはずなのに、彼らは至って元気である。」
猫B「新人、そこあいているぞ。」

ナレーション「彼らの中に犯人がいる、とは到底思えなかった。皆、和やかで親切だ。嘘か真かなんて言葉があるが彼らの中から犯人がいるとして探すのは難しい。無双は頭を掻きながら椅子に座った。」
効果音「カポーン」
雷猫・サンダー「ここの風呂桶は雲に乗った神様の絵が描いてあるんだ。ほら、石鹸。」
十文字(無双)「ありがとうございます(投げられた石鹸を受け取る)」
ナレーション「横に座ったサンダーは鏡の前で泡立てながら遊んでいる。いつも大勢の人目につく場所にいるなら命の危険もないかもしれないと安易なことを考えていた無双だった。」
十文字(無双)「本当だ…お湯で絵が浮かび上がってきますね。これは面白い。」
ナレーション「桶にお湯を入れると揺らめいて浮かんできた絵は神様の絵だった。水をいれるとそれはたちまち消えてしまう面白い仕掛けだ。」
鬼江「……」
ナレーション「ふと、無双の背後から何か気配を感じた。一瞬、背筋に寒気が走った…。」


ギン(十文字の上司)「鬼江!まーた新人にちょっかいをかけようとしたな!!」
ナレーション「タイルに水しぶきを飛ばしながらギンが走ってくる。無双を庇うように鬼江の前に立つと怒り始めた。」
鬼江「やっだ〜ギンちゃん!新人君のお背中流そうとしただけじゃない〜そんなに怒らなくてもい・い・のに。(無双にウィンク)」
ギン(十文字の上司)「お前はやることなすこと力かませで乱暴だから好意が暴力なんだ!そうやって何人に抱きついて骨折らせたと思ってる!大体そのオカマ口調で『ギンちゃん』なんて呼ぶなっ!」
ナレーション「無双は2メートル近いごつい男がオカマ口調で話してるのを見て唖然とした。」
ギン(十文字の上司)「お前が事件の犯人だったらなと新人に漏らしてたところだよ。…で、鬼江。あの刀の出所はわかったのか?」
鬼江「私が犯人だと疑われてると信じ切って泳がせてる最中よ。犯人の刀は隣町の有名な刀職人の名刀らしいわ。じきに犯人も捕まえちゃうわよ。」
ナレーション「風呂場は皆が出払ってしまい今いるのは無双含めて3人だけだ。あまり隠れて会合をしてたら怪しまれるのでこの場で打ち合わせをしていた。サンダーは外に出て着替えている。」
十文字(無双)「隣町の刀職人…親父から名前だけは聞いたことはあります…確か、雷流丸…」
鬼江「あら、新人君、ご名答。」
十文字(無双)「親父も私と同じ剣道部に所属していました。その雷流丸は隣町の中学校だったんですが、剣道の腕はかなりのもので向かうところ敵なしだったとか…」
ナレーション「雷流丸は入部した当初から先輩を圧倒する強さであった。無双の父の学校でも彼の伝説は有名であった。しかし、ある試合で雷流丸の無敗神話は消滅してしまった。」
十文字(無双)「その試合で対戦した選手は雷流丸を脅かすほどの力の持ち主でした。雷流丸よりもずっと小柄でありました…。」

鬼江「男は小柄なんて関係ないわ。ねっ、ギンちゃん」
ギン(十文字の上司)「お前は黙っててくれ…」
ナレーション「周りからちやほやされていた雷流丸はその選手に敗れてから自殺にまで追い込まれるほどに精神が病んでしまったそうだ。学校を中退し家の仕事を引き継いているらしいがそれも随分前に聞いた話だった。」
ギン(十文字の上司)「話は読めてきたぞ、その小柄な男は社長だろ?」
鬼江「とてもいい推理だけど雷流丸の刀なのは確かだけど犯人は彼じゃないわよ。彼、神経の病気でね、今は刀家業も休んでるし寝たきりよ。1人息子がいたらしいけど3年前から行方不明だって。」
ギン(十文字の上司)「そうか…息子の顔写真とかは持ってるのか?」
鬼江「おでこにやけどの跡があるぐらいかしら。私の化粧カバンに入ってるわ。」
十文字(無双)「化粧するんですか??」
鬼江「新人君ぐらいピチピチで綺麗ならもっと化粧で綺麗になれるわ。私だって体はこんなんだけど心は乙女でしょ?大変よぉ」
十文字(無双)「いえ…結構です…」
ナレーション「鬼江と無双の距離はいっそう縮まっていた。このままでは無双まで化粧をされてしまいそうな勢いだったので、なるべく目をあわさないようにしながら断った。」

効果音「カポーン…ガラガラ(戸を開ける音)」
「お邪魔でしたか?スイマセン、そろそろ風呂場の掃除をさせて欲しいのですが。」
ギン(十文字の上司)「蔡、いや…気を使わなくてもいい。これから出る所だ。」
ナレーション「蔡(サイ)と呼ばれた少年はまだ幼い顔立ちをしていた。怪我しているのか顔半分を包帯で巻いている。肩まで伸びた髪もそのままにしているから一瞬女の子かと思ったが男風呂を覗く女はいないだろう。無双よりも小柄な少年はペコリと頭を下げると自己紹介をし始めた。」
「無双さんですね。お話は覗っております。私はここの掃除を担当している蔡ともうします。よろしくお願いします。」
ギン(十文字の上司)「こいつは親を亡くした苦労人だ。3年ぐらい前の冬に道端で倒れていた所を社長が助けたんだよ。」
十文字(無双)「さっきも…さっきもここに来ませんでしたか?」
「なんのことですか?」
十文字(無双)「…いえ。気のせいかもしれません。すいません。」


ギン(十文字の上司)「無双、雷流丸のことだが…」
十文字(無双)「ああ、はい…私も親父から聞いただけなので詳しくは分からないのですが、雷流丸はその相手と対戦した時に目を負傷したようなのです。」
ナレーション「その相手は小柄であったがその分俊敏な動きで雷流丸を翻弄していた。雷流丸が面を取ろうとした時、相手の竹刀が物凄い勢いで彼の右目に突っ込んできた。」
十文字(無双)「竹刀は激しく音を立てて折れるほどでした。折れた竹刀の一部が彼の右目に刺さり、失明してしまったのです。」
ギン(十文字の上司)「…む…」
十文字(無双)「雷流丸と対戦した相手が社長だとさっき、仰っていましたが…。」
ギン(十文字の上司)「それはだな、社長も剣の道を極めた方だからだ。だがあまり話したがらないんでさっきのは適当だ。それに…」
ナレーション「さっきから会話を横で聞いてる蔡が目をキラキラさせながらこっちを見ている。」
「あっ!すいません。お掃除行って来ます!!」
ギン(十文字の上司)「料理人や他の使用人に話さなきゃいいけどな…うっかりしてた」
鬼江「ギンちゃんの推理なんてあてになんないわ。この間のサスペンスでも犯人当たらなかったのよ」
ギン(十文字の上司)「うるさいぞ!(タオルで鬼江を叩く)」
十文字(無双)「ところで…そろそろ着替えませんか?」
ナレーション「脱衣所で男3人がシャツとパンツ姿で話し込んでるのもなんだかなと思った無双だった。風呂場では蔡がたわしで掃除を始めていた。」
ギン(十文字の上司)「さ、今日からお守でもしながら今後の犯人探しに協力してくれよ!!期待の無双君っ」
十文字(無双)「はぁ…」
ナレーション「やたらテンションの高いギンにどう返していいのか分からなかった。無双はギンと鬼江を見送った後、自分がとんでもない出来事に巻き込まれていることに戸惑いを隠せなかった。」


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