第4話「少年剣士」

ナレーション「いきなりの登場に焦ったのは無双とサンダーだった。ギンはいつものように軽く挨拶をしながら手をひらひらさせている。」
ギン(十文字の上司)「遅かったじゃないですか…あーこの机はサンダーが壊しました。でも椅子だけは守りました!いや〜元気が有り余ってるようで大変ですよ。」
ナレーション「社長はじろりとギンのほうを睨み付けた。そして、息子のほうにつかつかと歩み寄りいきなり抱え、尻をたたきだした。」
雷猫・サンダー「ギン、よくも告げ口したな!この裏切り者!」
効果音「バシーン!」
ゴロ(サンダーの父)「自分の犯した過ちを人のせいにする子に育てた覚えはない!」
ナレーション「ゴロはサンダーが泥だらけの靴を脱ぎ散らかして部屋に入ったことも怒っていた。」
ゴロ(サンダーの父)「どうしていつもいつも…(深く考えるように目を閉じる)」
ナレーション「手がかかる子供だからこそ可愛いというがこれでは同じことの繰り返しだとゴロは悩んでいた。ギンは子供の扱いは上手いが厳しさには欠けるところがある。そんなゴロが叩く手を止めて顔をあげたとき、ふと無双と目が合った。」
雷猫・サンダー「いまのうちだ!(ゴロの手をすり抜けて部屋から出て行く)」
効果音「バタンッ(ドアの閉まる音)」


ナレーション「部屋には大人3人が残された。静まり返った部屋で社長と会えばやっぱり緊張してしまう無双だった。」
ギン(十文字の上司)「社長、例のお守のお姉さんも産休をとってることですし…我々は仕事があるからそう構ってもやれないからいっそ…彼に」
十文字(無双)「はぁ?」
ギン(十文字の上司)「彼は兄弟も多く、弟妹の面倒を見ているそうです。小さい子供にはなれていることでしょうし、年の離れた私達より近い感覚でサンダー坊ちゃんと接することが出来るでしょう…」
十文字(無双)「そ、そんな、藪から棒に!」
ゴロ(サンダーの父)「決まったな。(頷いて机から契約書を取り出す)」
ナレーション「手際よく社長のサインをする手をただ黙って見つめていた無双だったが、社長の手は親指周りから赤く腫れていた。剣道をやってるんだろうか?と思った。」
ゴロ(サンダーの父)「ここにサインしたら契約成立だ。強制はしない、自分の意志で決めてもらいたい。最初はお守の仕事から始めてもらうがあとで本業を覚えてもらう、以上だ。」
ナレーション「半分壊れた机に置かれた一枚の契約書。それは、無双のこれから先を決める重要な紙だが、破ってしまえばただの紙切れだ。」
ギン(十文字の上司)「…ん?外がやけに騒がしいな…社長、ちょっと見てきます。」
ナレーション「サンダーのはしゃいだ声と誰かのわめき声。それは小さいながらも状況がわかるぐらいには聞こえてくる。」
猫A「うわああああああ!」
雷猫・サンダー「ひとーつ、人の世の生き血をすすり…」
ゴロ(サンダーの父)「あいつ、また他人相手にチャンバラしおって!」
ナレーション「その頃ゴロの竹刀を持ち出してサンダーはチャンバラごっこをしていた。しかもめちゃくちゃに振り回しては叩いている。」
十文字(無双)「坊ちゃんを止めたら採用してください。止められなかったらこの話はなしということでいいですか?」
ナレーション「渋い顔をしたゴロに無双は決意を固めたようにしっかりと言い放つと、声のするほうに向かって走っていった。ゴロは突然の事に驚きはしたが無双の言葉を信じることにする。あれで中々いい仕事ができるかもしれないと思ったからだ。」
ギン(十文字の上司)「いけー!そこ右だ!しっかり打て!!」


ナレーション「無双が急いで外の扉を開けると庭ではサンダーが暴れまくっていた。それはわかってたがギンがサンダーを相手に褌一枚でチャンバラごっこに加わっていた。どっちのお守を任されたんだと一瞬頭痛がする無双だった。」
ギン(十文字の上司)「ほらほら〜まだまだよわっちいな、サンダーは!」
雷猫・サンダー「裏切りものは成敗!(力で押し切ろうとする)」
ナレーション「ギンの脱ぎ捨てられた服が空を舞う。それがそのまま無双の頭に降りかかった。」
効果音「バサッ」
ナレーション「無双の目の前には数人の男がうずくまっていた。サンダーがふざけて竹刀を振り回したことによりあたって怪我をしたらしい。」
十文字(無双)「大丈夫ですか!」
雷猫・サンダー「あ!新人。こんなところで何してるっ!」
ナレーション「倒れた人に駆け寄る無双に気がついたのか、サンダーがこちらに向って走ってくる。いくらなんでもこれでは酷いと思った無双はサンダーの竹刀を奪い取った。」

十文字(無双)「竹刀は乱暴をする為に作られてはいません。真剣に相手に向かう気持ちがなければ、坊ちゃんには必要のないものです。」
雷猫・サンダー「……」
十文字(無双)「もし、言いたいことがあるなら私が受け止めましょう…その竹刀を私に振りかざしてみなさい、私は受け止めて見せますから…思う存分やりなさい。」
ゴロ(サンダーの父)「(何のつもりだ、あいつは…)」
ナレーション「無双は竹刀をサンダーに再び渡し、丸腰の状態でサンダーの許に歩み寄った。サンダーは無双の態度に困惑している。さっきまでのキカン気はどうしたのか、後ずさりすらしている。」
十文字(無双)「さぁ早く!」
ナレーション「逃げそうになる足をやや土にめり込ませ、サンダーは竹刀を持つ手に力を込めようとしたが手が震えた。きっと無双は避けないだろう、それが判っているのに震えが全身にまで広がっていく。」
十文字(無双)「加減しないで本気で向かって来なさい!」
雷猫・サンダー「……うっ…(目から涙がこぼれ出す)」
ナレーション「最初に流れた涙は大粒になってサンダーの頬から滑り落ちた。竹刀を持つ手が緩んで地面に落ちる。暴れてめちゃめちゃになった庭は目もあてられない光景だったが無双の言葉で嵐が止んだ。」
ギン(十文字の上司)「50万の盆栽に…これはいくらの灯篭だったか?まぁ積み上げたらなおるだろ…」
ナレーション「さっきから荒れ果てた庭を散策しているギンに飽きれたのか無双はギンの服を投げつけた。」
十文字(無双)「倒れた人はどうでもいいんですか?」
ギン(十文字の上司)「ん?お前こそよそ見してていいのか?」
ナレーション「その言葉でサンダーを振り返ろうとしたが遅かった。無双のお尻に竹刀を刺して逃げていくサンダー…それが気を失う前に見た姿だった。」
ギン(十文字の上司)「おい!大丈夫か!!(無双を揺さぶるギン)」
効果音「バタッ…!」


ナレーション「これで倒れたのは何度目だったか…?視界は真っ白で手を動かすのもだるい。そもそも最初は仕事の事で来たはずだ。あぁこんなばかげたのことは夢なんだと無双は思った。」
ギン(十文字の上司)「お〜い誰か運ぶの手伝ってくれ」
ナレーション「数人の声が遠くではっきり聞き取れた。ちょうど昼寝の時の金縛りのように直立不動の状態になっている。」
ギン(十文字の上司)「それにしても坊ちゃんは大胆なことをしてくれたもんだ。こんなに深く刺したら切れ痔になってしまうぞ…。」
ナレーション「無双がとても口に出来ないお下劣な言葉をギンは連発していた。無双は怒りを通り越して、脱力感に襲われた。」
雷猫・サンダー「…新人、死んだのか?」
ギン(十文字の上司)「なーに、こいつはこんなことで死ぬタマじゃない。」
十文字(無双)「いい加減にしてください!」

ナレーション「目が覚めた時、そこは開け放たれた障子から枯山水が見える広い和室だった。だが和室にはさっきまで声がした無双とサンダーの姿はない。」
ピカリ(サンダーの母)「気がつかれましたか?」
ナレーション「和服姿の女性が無双の寝ている布団の傍に座っていた。」
ピカリ(サンダーの母)「ひやし飴をここに置きますからよかったら飲んでくださいね。」
ナレーション「起き上がろうとした無双だったが体が重くて起き上がれそうにない。息を吐いて目を閉じるとあれはやはり夢ではなかったと無双は沈んだ。庭にはギンの使ってた箒と竹やりが片隅に置かれていたからだ。」
ギン(十文字の上司)「奥さん、あーすいません。後は私が面倒を見ますから。」
ピカリ(サンダーの母)「…お大事に(ギンと入れ替わりにその場を離れる)」
ギン(十文字の上司)「(部屋にずかずか入ってきて無双の傍に座る)どうだ?具合は…なんとかやっていけそうか?」
ナレーション「そういってギンは無双の傍に置いてあったひやし飴をぐびっと飲み干した。」
十文字(無双)「……」
ギン(十文字の上司)「おい、サンダー、気がついたぞ、そっちに隠れていないで…」
ナレーション「おいで、おいでと手招きをするギンに耳だけ障子から覗かせているサンダー。そんな姿を無双はぼんやりと見ていた。」
雷猫・サンダー「…悪かったな、新人(ボソッと呟いて廊下を走っていく)」
ナレーション「夕日が部屋に差し込んでくると部屋は赤く染まっていった。廊下に慌てて走るサンダーの足音がすると無双は体を起こした。」
十文字(無双)「痛っ…(お尻を押さえて手でさする)」
ギン(十文字の上司)「社長がお前を雇うそうだから明日からよろしく頼む!まっ今日は泊まって行ってもいいぞ。」
ナレーション「それと、ここだけの話だが…とギンは小声で話し始める。ここ数ヶ月の間に蔵の鍵が無理やり壊されたり、おかしな脅迫状が届いてるという話だ。どれがどうやら内部にいるらしい。」
ギン(十文字の上司)「社長は恨みをかうような性格じゃないが、用心に越したことはない。誰が犯人かわからんが全員を疑うわけにはいかないからな。」
十文字(無双)「坊ちゃんは知ってるんですか?」
ギン(十文字の上司)「いや。子供の耳に入れる話じゃないだろう。アレは意外と繊細な所もあるんだ。」


十文字(無双)「そうですか…で、内部犯という根拠はどこに?」
ナレーション「無双の言葉にギンは眉を曇らせ、正座で座りなおした。さっきのちゃらんぽらんな彼の顔つきが心なしか険しくなっている。」
ギン(十文字の上司)「蔵の鍵の周辺が刀で傷つけたような跡があった…それに鍵も刀のようなもので斬られていることが分かった…。」
ナレーション「使われた刀は後日社長室の机の上に刺さっていた。悪趣味なことにサンダーの赤ん坊の時の写真の上にそれは刺さっていた。社長室にはこじ開けた形跡もない。鍵で開けたのだろう。」
ギン(十文字の上司)「それだけじゃない。写真には奥さんや社長の写真もあった。部屋中に切り刻まれた写真が貼ってあった…あれ以降、奥さんも気弱になってきている。」
十文字(無双)「内部で恨みを持つ者の反抗ですか…心当たりはないんですか?」
ギン(十文字の上司)「それは…」
ナレーション「言いかけたときに誰かの怒鳴り声がした。社長の声だ。」
ゴロ(サンダーの父)「お前と言う奴は!何度いったら判るんだ!!」
ギン(十文字の上司)「あーまただ、怒鳴られる。あいつはそろそろクビになるなぁ…」

十文字(無双)「誰ですか?」
ギン(十文字の上司)「4ヶ月前にここに入社してきた鬼江という男だ。まったく役にたたない上に暴力ばかり振るって…もしかしてあいつが犯人かもしれないな。」
十文字(無双)「それは安易というものでは…」
ギン(十文字の上司)「わしにもわからない…ただ…」
十文字(無双)「ただ…?」
ギン(十文字の上司)「鍵を斬られたと言っていたろう。あれは相当刀を使い慣れたものの仕業だ。雷猫一族に伝わる技にそれに相当するものがある…」
雷猫・サンダー「ギンー!飯だぞ!新人も早く来いっ」
ナレーション「館内放送でもあるのかスピーカーでサンダーが名前を呼んでいる。ただ無双の名前はいまだに『新人』だ」
十文字(無双)「何時になったら名前で呼んでくれるんでしょうね(苦笑いをする)」
ギン(十文字の上司)「さぁな。あれで意地っ張りだからすぐかもしれないし、まだまだ先かもしれん…ところでお前の名前って…」
ナレーション「ふと思い出したように首を傾げてギンは無双を見ていたが、首を振って『まぁいいか』と独り言をいって背を向けた。無双はすっきりしなかったが、たいしたことでもないだろうと思って詮索はやめてギンの後に続いた。」


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