第1章・第3話「雷組の男」

効果音「チュン、チュン、チュン…」
ナレーション「翌日、無双は照蔵の元同僚に教えられた場所に向かっていた。何でもそこには男性の知人がいて、彼が無双のことを話すと一度あってみたいと言い出した。」
猫B「一度会ってみるのも無駄でないと思うよ…向こうがどんな話をするか分からないけど、君が興味を持っている造園の仕事も入っているようだ。」
十文字(無双)「かなり大きな会社ですか?」
猫B「従業員が300人ほどいたかな…実際にいって確かめるのがいちばんだ。ここに地図を書いておくよ。」
十文字(無双)「…。」
ナレーション「無双の目の前には大きな門があった。看板には達筆な文字で『雷組』と大きく書かれていた。」


十文字(無双)「それにしても静かだな…もう会社が始まったのかな…?」
ナレーション「無双は会社の中をのぞくために窓の近くに来た。向こうには従業員と思われる人間がたくさん集まっている。朝礼のようだ。」
効果音「トントン…」
ナレーション「無双の肩を後ろから叩くものがいた。だが、無双は中のほうに気をとられ、それに気づいていなかった。」
効果音「トントン、トントン…」
十文字(無双)「なんですか、一体…うわぁっ!!」
効果音「ズシーン!」
ナレーション「無双は会社の様子を見るために使ったイスから転落した。仰向けになった状態から起き上がると、髪を長く伸ばしヒゲと同化した厳つい顔の男が立っていた。」
ギン(十文字の上司)「お前、そこでなにをしている?…まさか泥棒…」
ナレーション「紫色の地肌、額には三日月の模様の男は無双を眺め回した。どうやら、自分のことを疑っているようだ。男はそこで掃除をしていたのか、箒を持って構えていた。」
十文字(無双)「待ってください!私は…」
ギン(十文字の上司)「でやああああ!!」
ナレーション「無双がそれを否定するよりも早く、男はほうきを頭上に振り上げた…その瞬間、無双の意識は途切れた。」


十文字(無双)「…?」
ナレーション「気がつくと無双は医務室のベッドに寝かされていた。驚いて起き上がるとそこにはさっきの箒男がばつの悪そうな顔をして座っていた。そしてもう一人、医務室を担当していると思われる女性がいた。」
猫C「まったく、ギンさんはそそっかしいんですから…確かめもしないで箒で面打ちするなんて…」
ナレーション「無双が意識を取り戻したことに気がついたのか、ギンは照れ隠しに頭をかいた。女性は呆れた表情でギンを見回した。」
猫C「もう少し手加減してくださいよ。箒だから軽い傷だけで済んだもの、ギンさんが本気を出したら脳震盪だけでは済まされないですからね…。」
ギン(十文字の上司)「そこのお前、す、すまなかったな…わしもさっき頭に血が上っていたんだ…お前…確か、わしの知人に紹介された…」
十文字(無双)「え、あなたがですか?」

ナレーション「ギンの言葉に無双は一瞬、不安がよぎった…この男が後に自分の直属の上司になることは知る由もないが、箒で叩かれたことがよほどショックだったのか、問いかけに少し間があった。」
十文字(無双)「父の事はご存知なのですか?」
ギン(十文字の上司)「お前の父親のことは直接は知らないが、お前のことは聞かせてもらった…剣道部に所属していたのか?」
十文字(無双)「はい…」
ギン(十文字の上司)「お前は気がついていないかもしれないが、わしの箒を無意識にかわしておった…これはただの素人ではないと思っていたが…やはり」
十文字(無双)「あなたはまさか…」
ギン(十文字の上司)「いや、わしは中学校時代は野球一筋だった。」
効果音「ドスン」
ナレーション「無双はベッドから転げ落ちた。ギンは何で落ちたのか分からない表情をしていた。無双はぶつけた後頭部を思わずさすった。」
十文字(無双)「何事もなかったような顔しないでください!」
ギン(十文字の上司)「おお、これはすまない、じゃ、ここの社長と会ってもらうよ…ついてきなさい。」
十文字(無双)「はぁ…」


効果音「ギィ…ギィ」
ナレーション「長い廊下だ。ウサギ小屋同然の家で暮らしていた無双にとっては、ここはとてつもなく広かった。無双の前をギンが先導するように歩いている。」
ギン(十文字の上司)「お前は何人兄弟だ?」
十文字(無双)「10人兄弟です…私が長男で、末の妹は3歳です…。」
ナレーション「無双の緊張を和らげようとしているのか、ギンは世間話をし始めた。それにしても落ち着きのない男である。長めの髪を右手でいじくりながら左手は自分の尻を掻いている。無双が遠慮して廊下を恐る恐る歩いているのに、がに股でペタンペタンと大きな音を立てている」
ギン(十文字の上司)「私がここに入ったのもちょうどお前ぐらいの年だった…」
十文字(無双)「はぁ…」
ナレーション「ギンはやたらに声がでかい。無双がため息混じりに相槌を打っていても気にするそぶりも見せない。時折、「なんか言ったか?」と彼の言ったことを聞きなおすことがあった。」
ギン(十文字の上司)「すまん、私は若い頃に耳を悪くしたんで、ついでかい声で話してしまうんだ…別に怒っているわけでないからな。」
ナレーション「ギンが前触れも無く突然止まった。無双はうっかり彼の背中にぶつかりそうになった。目の前「社長室」とかかれた札のあるドアがあった。」
効果音「コンコン…」
ギン(十文字の上司)「社長、ギンです。紹介された少年が面接に来ました。」
ゴロ(サンダーの父)「…」
ナレーション「ギンの言葉に反応する様子もない。無双は一瞬、不安になった。ギンはまた頭をかいている。」
ギン(十文字の上司)「ああ、社長はいてもすぐに返事しないことがあるんだ。ま、いるだろう、失礼しますよ!」
効果音「ギギギギ…」
ナレーション「目の前には社長の机らしきものが置かれていた。」
ギン(十文字の上司)「社長〜、いらっしゃらないんですか?」


ナレーション「ギンの言葉に反応したかのように机の上の古びた黒電話が鳴り出した。ギンは電話に目をやるとさっと受話器を取る。」
効果音「ヴィリリリンッガチャ(電話の音)」
ギン(十文字の上司)「はい…ギンですが。はい、…え?今日は遅れるんですか?」
ナレーション「社長室にはたくさんの写真たてが飾っていた。なにかの賞やトロフィーがいつも磨いているのかピカピカに輝いてる。無双は初めて入った社長の部屋を観察しながらギンの声に耳を傾けた。」
ギン(十文字の上司)「急用で社長は一時間遅れるそうだ。ま、ここで話でもしようか。」
ナレーション「ギンは社長の席にどんと座って、客席を無双に譲った。ギンの態度に半分呆れながら仕方なく席につく。」
ギン(十文字の上司)「正直、ここ数日まともに寝てない。だから、話の途中で寝るかもしれないが、その時は起こしてくれ。」
ナレーション「あくびをしながらイスにもたれ掛かるギン。まだ緊張が解けない無双。2人の間にはやけに張り詰めた空気が流れていた。会話なんて思いつかない、なにを話せばいいのか無双は戸惑う。」
ギン(十文字の上司)「質問される前に、思ったことをそのままいってみたらどうだ?これからのこと…とか。背中を押されないと何もいえないなら損してばかりだ。…ここに見本がいるからいえるんだが。」
十文字(無双)「見本…?」
ナレーション「ギンは笑いながら自身の顔を指差した。そして指をもてあましたように机の上にあったペンを回している。そしてなにやら文字を書き始めた。」
十文字(無双)「なにを書いているんですか…?」
ギン(十文字の上司)「今話したくなくてもいつか困った事があったら連絡するといい。相談にのってやろう、連絡先だ。」
十文字(無双)「…ありがとうございます。(イスから立ち上がって頭を下げる)」
ナレーション「満足そうに頷くギンは次第に目を閉じてそのままいびきをかいて居眠りをし始めた。」


効果音「コン、コン、コン…」
ナレーション「それからまもなく社長室のドアをノックする音がした。無双はドアの近くに向かった。彼のひざあたりでノックの音が聞こえてる。」
十文字(無双)「…はい?」
雷猫・サンダー「ギン!どこにいるんだ!あそんでくれ!」
十文字(無双)「(子供?)」
ナレーション「無双はギンを振り返ったが、起きる気配はない。仕方なく、無双はドア向うの相手の名前を聞いてから開けることにした。」
十文字(無双)「名前を聞かせてください。無断で知らない人を入れるわけには…」
雷猫・サンダー「??(首を傾げるサンダー)」
ナレーション「知らないのはそっちのほうだとサンダーは思った。そう思うとムキになってさらにノックする。」
ギン(十文字の上司)「う〜ん…むにゃむにゃ…ドラ焼き…(寝言)」
雷猫・サンダー「いいかげんにしないとこっちからくるぞ!」
ナレーション「子供の気合の入った怒声で思わずあとずさる無双だが、体当たりされては困ると思いあっさりドアを開ける。」
雷猫・サンダー「うわぁぁぁ〜!!」
ギン(十文字の上司)「ん…ぐぁ!」
ナレーション「予想どうり、体当たりしようと走ってきた子供が勢いを止められず机に衝突。ギンもその巻き添えを食らうこととなった。無双は見てられないと思い、左手で目を覆った。」
雷猫・サンダー「えい、悪代官退治してくれよう!お縄を頂戴する!」
ナレーション「虎ジマ模様の子猫がギンの腹に乗って跳ねている。見た目は2,3歳、ちょうど無双の末の弟ぐらいである。」
ギン(十文字の上司)「あぁ?…なんだサンダーか。今日は友達と遊ばなかったのか?」
ナレーション「眠りから半分強制的に起こされたような声を出してギンは元気のいい子供の頬を横に引き伸ばした。」
雷猫・サンダー「痛いよー!うわーーーん!」
ナレーション「頬を引っ張られた子供は火がついたように泣き出した。無双はあまりの泣き声に鼓膜が破れそうだったが、ギンはお構いなしだった。」
ギン(十文字の上司)「ほれ、男の子が泣くんじゃない、あいつが見てるぞ。」
ナレーション「これまで、ギンだけに集中していた子供は背後でこちらの様子を見ている無双の存在に気がついた。と、同時に訝しげな目で無双を観察している。」
雷猫・サンダー「誰だよ、あいつ」


ギン(十文字の上司)「昨日話しただろう、ほら…ごにょごにょ(耳に囁く)」
雷猫・サンダー「なんだ、新人か-」
ギン(十文字の上司)「ほら。新人、自己紹介!この子は社長の息子だ。名前はサンダー。」
十文字(無双)「ぐっ」
ナレーション「無双はサンダーの態度に思わず言葉が詰まった。自分の末弟もやんちゃなところがあったが、この子供の口の利き方は子供のものとは思えない。」
雷猫・サンダー「どうした、新人、礼儀がなってないぞ?」
十文字(無双)「(くぅーっ!なんて奴だ!!)」
ナレーション「実の弟なら叱りつけることもできただろうが、今の状況でそんなこともできない。ぐっと喉からでそうな本音を堪えて無双は手を差し出した。」
十文字(無双)「無双です。サンダー坊ちゃんと御呼びしてもいいですか?よろしくお願いします。」
効果音「パシンッ」
ナレーション「無双の手をサンダーの小さい手が叩く。無双は握手を求めたつもりが叩かれたことに大きなため息をついた。そんな無双を観察していたギンは椅子に深々と体を預けながらニヤリとしている。」
ギン(十文字の上司)「お前も苦労するだろ。言っておくがサンダーにやられたのはこれで63人目だ。」
雷猫・サンダー「ギンよりも、もっと強くなるんだ!」
ナレーション「サンダーは調子に乗り、無双の頭を何度もはたいた。無双は複雑な心境になったが、この態度は自分を受け入れようとしているのだと思うことにした。」
効果音「バシッ、バシッ!」
ギン(十文字の上司)「…おや、社長、お帰りなさい」
十文字(無双)「シャ、社長…?!」


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