第1章・第1話「忘れ去られた傷」

十文字(無双)「グ〜〜〜…ムニャムニャ…」
ギン(十文字の上司)「おい、十文字…寝てるのか?」
ナレーション「十文字は深い眠りについていた。遺跡での戦いの後、ギンに酒を飲もうと誘われたのだった。シグレや風猫の長老、そしてタマたちを巻き込んでどんちゃん騒ぎだったが、十文字だけは酒を2、3合飲んだ後から意識が途切れてしまったのだった。」
十文字(無双)「ギンさん…もう飲めません…」
ナレーション「いつの間にか十文字の周りにはタマたちが寄ってきていた。タマは十文字の顔を指でいじり、サンダーは『またか』という顔で彼の顔を覗き込んでいた。」
ギン(十文字の上司)「こいつめ…これじゃ、わしがまるで樽で無理やり何杯も飲ませているようではないか…」
雷猫・サンダー「(当たってるじゃないか)」
ナレーション「ギンは十文字の頬を何度か叩いたが、ピクリともしない。その時、ギンが何か思いついたような顔をして、その場から離れた。」
風船猫・タマ「ギンさん、何してるんだろう?」

ナレーション「しばらくして、ギンが何かを皿にのせてやってきた。彼が近づいたとたん、その場にいたものは思わず顔をしかめた。」
風船猫・タマ「うわっ、何?この臭い!」
炎猫・フレイヤ「これはひょっとして…」
透明猫・レス「くさや…か?」
ナレーション「くさやは好きな人にとっては『この臭い』がたまらないらしい。ギンはニヤニヤしながらくさやを十文字の鼻に近づけた。」
十文字(無双)「うぐぐぐ…」
ナレーション「くさやが近づくにつれて、十文字の顔が歪んでいるように見えた。その時だった。タマの顔が紙をくしゃくしゃに丸めたようにしわだらけになった。そして、目と鼻がしわの中に消えた。その顔を見たギンは目を丸くした。」
ギン(十文字の上司)「…ぶ、ぶはははははは!!!」
ナレーション「タマはすっぱいものを食べたり変な臭いをかいだりすると顔が極端に縮む体質だった。ギンはタマの顔を見て吹き出し、爆笑した。ギンの手からくさやをのせていた皿が離れ、くさやは十文字の顔に落ちた。」
十文字(無双)「…??…う、ぐ…ぎゃあああああ!!」


効果音「ジャアアア…」
ナレーション「十文字は石鹸を顔にこすり付けるように顔を洗っていた。くさやの臭いがしみこんでいるような気がしてかなわない。何度も何度も顔が真っ赤になるのではないかと思うくらい強くこすっていた。」
ギン(十文字の上司)「タマがくしゃくしゃの顔でわしのほうを見るから…」
十文字(無双)「ギンさんがくさやを持ってきたからです!タマさんは関係ありません!」
風船猫・タマ「何で僕のせいになるの…ギンさんがそんな臭いの持ってくるから…」
ナレーション「タマはギンの言葉にふくれっ面をした。タマがふと後ろを振り向くと今度はレスが何かを持ってきた。分厚い冊子のようなものが数冊あった。」
風船猫・タマ「なんなの?それ?」
透明猫・レス「フフフフフフ…面白いものを見つけたぞ…フフフフフ…」
ナレーション「レスの意味深な笑みを見て、十文字の顔の血の気がさっと引いた。レスの手に持ってるものを取り返そうと十文字が慌てて立ち上がると、ギンが彼の肩をガシッとつかんだ。」
ギン(十文字の上司)「なぜ、慌てる?見ても減るもんじゃないだろう?」
十文字(無双)「見ないでください!レスさん!」

透明猫・レス「見るなといわれたら見たくなるもんだ」
十文字(無双)「あ、あーっ!」
ナレーション「レスは手に持っている冊子を高々と上に上げた。サンダーとギンは十文字を羽交い絞めしている。」
ギン(十文字の上司)「それは雷組の方で作っている会社のアルバムだ…この会社が出来た頃からずーっと作っておる。わしの若い頃も写っておるぞ。」
風船猫・タマ「えっ?ギンさんに若い頃があったの?」
ギン(十文字の上司)「最初からしわしわの顔はしておらん!昔はもっとたくましかったぞ!」
雪猫・ケイン「今は骨と皮しか…」
炎猫・フレイヤ「じゃあ、十文字さんも写っているんですね。」
ギン(十文字の上司)「ま、そういうことだ。誰か余計なことを言っておるが…」
風船猫・タマ「わ、見る!僕にも見せて!」
効果音「ドスン」
ナレーション「タマは十文字の背後から馬飛びをするようにレスの方に向かった。十文字たちはバランスを崩し、かえるがつぶれたような声を上げた。」
十文字(無双)「ムギュウッ」
雷猫・サンダー「俺たちまで足蹴にするなっ!」


効果音「パラパラパラ」
ナレーション「タマとレスは雷組のアルバムをめくり始めた。その傍でケインとフレイヤが覗き込んでいる。一番古いと思われるアルバムはモノクロで、かなり年季が入っている。」
風船猫・タマ「あっ、サンダーのお父さん?」
炎猫・フレイヤ「似ていますけど…多分、おじいさんでないでしょうか。昭和23年って書いてありますし…」
雷猫・サンダー「若い頃の爺さんだ。親父はまだ生まれていないよ…」
ナレーション「サンダーが後ろから声をかけた。タマは新しいアルバムの方を開いている。何枚かめくってみると見覚えのある顔が目に飛び込んできた。」
透明猫・レス「若い頃のギンさんってこれじゃないか?」
ナレーション「レスの指先に20年ほど前のギンの写真があった。顔は現在よりも精悍な印象で、体格もがっしりしている。」
ギン(十文字の上司)「この時はお付の総リーダーをやっていたんだ…一番忙しかったな。」
ナレーション「ギンは懐かしそうにアルバムを見て目を細めた。傍でタマが食い入るように見ている。あまりにも顔を近づけているので、ギンは気になって仕方なかった。」

風船猫・タマ「ねえ、十文字さん、どこ?」
炎猫・フレイヤ「この中にはいないんじゃないんですか?」
ギン(十文字の上司)「いや、写っているはずだが。十文字が雷組に入ったのは中学を卒業してすぐだったからな…この頃だったはずだ」
ナレーション「レスは横目で十文字を見ていた。なんだか落ち着きがない。アルバムの方を見ようとしていない。」
雷猫・サンダー「あ…」
風船猫・タマ「あれ…」
ナレーション「サンダーとタマがつぶやいたのはほとんど同時だった。雷組の従業員が写っている中にあどけない少年の顔が一人いた。顔こそは現在よりも幼い印象だったがまぎれもなく、十文字だった。しかし他のものはなにか違和感がぬぐえなかった。」
風船猫・タマ「ない…傷がないよ…」
炎猫・フレイヤ「あ、本当ですね…」
透明猫・レス「…これはどうしたことだ」

ナレーション「今度は十文字だけでなく、ギンとサンダーの様子もおかしかった。さっきから他のものは写真の十文字をじっと見ているので戸惑っている様子だ。」
ギン(十文字の上司)「いや…これはその…」
十文字(無双)「…(その場をたちさる)」
雷猫・サンダー「十文字!」
風船猫・タマ「僕たちなにかいけない事言ったのかな…」
ナレーション「十文字が黙っていなくなったことで、他のものは何かただならぬ雰囲気を感じていた。触れてはいけないことを言ってしまったのだろうか。」
ギン(十文字の上司)「…あの十字の傷はあいつが雷組に入ってから、そんな経っていない時に出来てしまったものだ…」
一同「えっ?」
ナレーション「ギンは遠くを見るような目つきをした。10数年前のことを思い出していた。」
ギン(十文字の上司)「あれからちょうど12年か…もうそんなにたったのか…」
効果音「ジャアアアア…」
ナレーション「十文字は洗面所で頭から水をかぶっていた。額の傷が疼いている。今まで忘れていた何かがぶり返すように記憶の底からわいて出たようだった。必死に流そうとしていたが取れなかった…。」


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