第2章「過酷な修行」第5話「山奥の寺」


透明猫・レス「タマ!!」
ナレーション「絶叫した時、タマの頭の中は真っ白になっていた。罪悪感を捨てて、なにもかもかなぐり捨てて…ネミミ先生が関わってるから「足枷」だといわんばかりに言葉で責められタマは潜在能力を出していた。それは無意識の行動だった。」
効果音「ヒュオオオオオー(風が渦巻く音)」
ナレーション「パラパラ…と黒い108の数珠が風圧で地面に落ちる。レスが足元に落ちたソレを拾うとタマを心配するレスの顔が映し出されている。だがそれも手の中で砂のようにさらさらと消滅した。」
ギン(十文字の元上司)「ぐっ!!」
ナレーション「ギンは腹を押さえ、突然うずくまった。タマは彼の腹にパンチを一発お見舞いしていた。その一発はギンですら気が付かなかった。」
ギン(十文字の元上司)「(こいつ…わしが思っている以上に侮れん奴だ…!)」

効果音「バタッ!」
ナレーション「ギンがうずくまってまもなく、タマが前のめりに倒れた。レスたちはタマのそばに駆け寄った。タマは自分が何をしたのか分からない表情だった。」
風船猫・タマ「ぼ…僕はなにを…?」

ギン(十文字の元上司)「(にやっと口元を上げて豪快に笑うギン)あっはははは!!気に入った!」
ナレーション「大声で笑うギンをその場にいたみんながポカーンと見ていた。くったくのない笑顔はタマを見守っている。」
ギン(十文字の元上司)「合格だ!その根性が気に入った!(ひざを叩いてタマを指差す)ただし…今の力をいつでも出せるようにコントロールするんだ。」
風船猫・タマ「いつでも!?(立ち上がったギンを見上げて問い掛ける)」
ギン(十文字の元上司)「その前にメシを食べよう。修行はその後だ(さぁさぁといって皆を誘導する)」
透明猫・レス「立てるか?(手を差し伸べる)」
風船猫・タマ「…(俯くタマ)」


ナレーション「レスがいつまでたっても立ち上がらないタマを不審に思って彼の腕を取ると…木刀で、できたいくつもの打身のあざが浮き上っていた。」
十文字「タマさん!」
ナレーション「半ば引きずるように十文字はタマをサンダーの家の奥に連れて行った。そこに残ったレスとサンダーは立ち尽くしていた。」
雷猫・サンダー「俺が修行をしていたときはギンさんの攻撃を2週間は喰らいっぱなしだった…」
透明猫・レス「…」
雷猫・サンダー「寺での修行は地獄の連続だ…お前、それでもやるのか?」

透明猫・レス「…やるしかない…」
ナレーション「今の今までここまでの憎悪をぶつけられたことはタマにはなかったに違いない。レスはタマを心配していた、だが心配するあまりにタマの行く道を遮る存在にはなりたくないとも思っている。共に道を歩むなら共に強くなって生きていきたい、と。」
ギン(十文字の元上司)「メシが冷めるぞ!!何度も言わせるなっ!(奥からレス達を呼ぶギンの大声)」


ナレーション「こうしてギンがタマ達を鍛えようとしている頃ソレイユは遺跡の中で目を閉じて横たわっていた。」
ソレイユ「くっ…(眉根を寄せて胸を抑えている)」
ナレーション「ソレイユは冷たい石の台座に横たわって苦しんでいる。腕輪をした手が千切れるように熱い。たまに力をセーブできずに暴走しそうになる。あえて弱点をさらす大勢の前では戦えないと自覚していた。夜もそうだ。腕が熱くなって痛みが悪化する。」
ソレイユ「ま…だ…死に…たくないっ!(息をついて腕に爪を立てる)」

ナレーション「昨夜の夜の戦いが酷かった。夜の湖を見ていたら背後から切りつけられそうになった。珍しい腕輪をしているからと、卑しい男がソレイユを狙って襲い掛かろうとしたのを仕方がなく殺した。」
ソレイユ「はぁ…はぁ…(自分の手のひらを見る)」
ナレーション「ああしなければ自分がやられていた。けれどタマ達から見れば人殺しに見えただろうとソレイユは思う。そう見せようとわざと「風船猫」の名前を出した。」
ソレイユ「(目を再び閉じて泣き出す)お父さん…」


効果音「ホウホウホウ…」
ナレーション「日もとっぷり暮れ、ふくろうの声だけが静かに響いていた。タマたちは雷猫一族が修行の際に使う寺に向かっていた。彼らは山奥の中をもう2時間は歩いていた。」
風船猫・タマ「サンダー…お寺はまだなの…?」
雷猫・サンダー「俺のひいじいちゃんが若い頃建てたらしいんだが、わざとこの山奥に建てたらしい…」
ナレーション「いつもならタマにすごいツッコミをするサンダーであるが、今はいつにもなく神妙な表情である。寺の修行を経験しているだけあって軽々しいことも言えなかったからだ。」
雷猫・サンダー「この険しい山道は序の口だ。寺に入ったらもっとすごいぞ。」
ナレーション「タマたちの前をギンと十文字が少し離れて歩いていた。若い十文字はともかく、ギンの足の速さには驚きである。すでに息も荒いタマたちをよそに涼しい顔をして険しい山道を歩いている。」

ギン(十文字の元上司)「十文字、さっきの弁当は美味かったぞ。特にあの卵の味付けがいい。卵焼きは辛いほうが好きだからな。」
十文字「ありがとうございます。ギンさんは現役のときはめったに褒めてくれなかったですね。」
ギン(十文字の元上司)「どういう意味だ!?」
風船猫・タマ「ねえ…年ごまかしていない…?」
透明猫・レス「どういう意味だ。」
ナレーション「『年』という言葉にレスは顔を思い切りしかめた。実はレスは怒っているのだが傍から見ると目を細めているようにしか見えない。」
風船猫・タマ「違う、ギンさんのことだよ。」
十文字「皆さん、着きましたよ!」
効果音「ビュウウウウウウ…」


ナレーション「彼らの目の前には寺が建っていた…いや、正確には長い石段がそそり立っていた。まるで精巧なジオラマに迷い込んだような錯覚を見ていた。」
ギン(十文字の元上司)「おーい!(寺の門の方に手を振る)」
効果音「カラッコロ(下駄の駆け下りる音)」
ナレーション「赤い着物を着た幼い少女がギンを見て駆け下りる。長い階段をすっと飛び降りるとギン達の前に着地した。それを見て驚いたのはレスとタマだ。」
ギン(十文字の元上司)「紹介する、この娘はわしの姪っこだ。声帯を潰されて声がでないが心の声で会話できる…PTを取得できたらの話だがな。」
十文字「ミヨさん、お久しぶりです。(深々と頭を下げる)」
ナレーション「大きな目にあどけない顔が十文字に微笑みかける。綺麗に斜めに切り揃えられたおかっぱの髪がかすかに上下した。」
風船猫・タマ「ミヨさんもPTを修行したの?」

ナレーション「ミヨは両手を重ねて、手の平を丸めながら、人さし指だけを突き出した。タマが怪訝に思って首をひねってると十文字がタマに横から手話を教えてくれた。」
十文字「はじめまして、と挨拶しています。タマさんも最初は挨拶してください。」
風船猫・タマ「こんにちわ。僕の名前はタマだよ。「タ・マ」」
ナレーション「ミヨの口が微かにタマの名前を呟いた気がした。でも声は聞こえない。サンダーと十文字、ギンはぷっと笑いながらタマを見ている。(彼らには聴こえるようだ)」


ミヨ(ギンの姪)「(寺の方を指差している)」
雷猫・サンダー「ご飯の用意がしてあるから、この石段を登るんだ。」
風船猫・タマ「この石段って…何段あるの?」
ナレーション「タマの質問に雷猫達は一瞬顔を見合わせた。それを見ていたミヨは指で数を示した。」
ギン(十文字の元上司)「正確に数えたことはないから分からないが、千段は楽にあるだろう…いや、2千段だったけ?」
風船猫・タマ「うへぇ…(がっくりとその場に腰を降ろすタマ)」
ナレーション「ミヨがにっこりと笑ってタマの頭を撫でる。そして懐から蹴鞠を取り出したかと思うと階段を駆け上がりながら蹴鞠をついていく。レスに向かって蹴鞠を蹴るとミヨは階段の遥か上まで上っていった。」
雷猫・サンダー「蹴鞠を蹴りながらこの階段を上がるんだ。一回でも地面に落としたら一段目からやり直しになる。これを往復100回だ。」

ギン(十文字の元上司)「わしは先にメシの味見をするからお前達はメシが冷めないうちに終わらせて来るように。(ニヤリと笑って十文字の肩に手をまわす)」
十文字「坊ちゃまも頑張ってください。」
雷猫・サンダー「!俺まで?!」
ギン(十文字の元上司)「メシを食べたあとから修行ではメシが美味くないだろう。腹をしっかりすかせてメシを食う、美味しいだろ?」


一同「…」
ナレーション「げっそりとした3人を尻目にギンは足取りも軽やかに階段を上っていった。その後を付いていくように十文字も続いた。」
透明猫・レス「サンダー、わしらは寺での修行が初めてだ。しばらくの間付き合ってくれないか…ここで逃げるわけにはいかんのだ。」
ナレーション「レスの言葉にサンダーも意を決したように修行の準備を始めた。タマもようやく重い腰を上げた。ミヨは最上階で無邪気な表情で3人を見守っていた。」


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