ナレーション「ここは風猫の村。タマがレスと出会った場所である。風猫の長老が２人を探していた。」
風猫の長老「フウや、タマとレスは知らんか？」
フウ（長老の親戚）「いえ、来てませんわ…」
ヒメッポ（フウの養女）「お兄ちゃん達とご飯食べたかったなぁ…」
ナレーション「そのころ、タマは風猫の村付近の森の中の木に登って星を眺めていた。彼は一人で考え事をしたい時はいつもここにいた。」
透明猫・レス「タマ…そこで何をしている…？」
風船猫・タマ「…」
効果音「レスの声が聞こえないのか、それとも、聞こえない振りをしているのかタマはじっとしたままだった。」
風船猫・タマ「ネミミ先生のこと、考えてた」
透明猫・レス「…」
風船猫・タマ「忘れたことなんて一度もないよ…きっとあの子も僕と同じなんだ」
ナレーション「タマは独り言をいうようにレスには顔を向けずに星を眺めながら淡々と話しだした。」
透明猫・レス「それでも…戦いは避けられないぞ」
ナレーション「タマにもそれは判っていた。話し合いをする状況にはなれない。きっとレスだけでなく今度は他の仲間も傷つけられるかもしれない…だとしたら戦うしか方法がない。自分と自分の大切な人を守るために。」
ネミミ（タマの恩師）「娘の友達になって欲しい」
ナレーション「断片的な思い出がタマの脳裏を横切る。誰よりも身近にいて認めてくれた理解者、大好きな人。その人を消したのは自分かもしれない。ソレイユはまるでタマの罪悪感を具現化させたような存在だった。」
透明猫・レス「…わしが心配しているのはあの女のことだけでない。」
風船猫・タマ「…？！」
透明猫・レス「お前があの女…ネミミ先生の娘に罪悪感を持っていても、『生命』で償おうとすることだけはやめろ…いや、そんなことわしが許さん。」
風船猫・タマ「ありがとう…（一瞬だけネミミの顔とレスの顔をダブらせる）」
ナレーション「涙がこらえきれずに目ににじんできたがそれを拭ってタマは空を見上げる。時間はいつまでも待っていてはくれない、とタマは思う。ソレイユと向き合って理解する努力をするのが今の自分にできることかもしれない、と考え直した。」
透明猫・レス「…？（なにかの気配を背後に感じて石を草むらに投げるレス）」
効果音「ザッザザザァ（草をかきわける音）」
風船猫・タマ「どうかしたの？（不穏になってレスに尋ねる）」
猫A「た…たすっ…けて…」
ナレーション「負傷した村の住人が姿をあらわすとレス達に助けを求めてきた。」
猫A「あんた…風船猫だな…あんたを探してる人…が…（そのまま地面に倒れる）」
効果音「ドサッ！」
ナレーション「倒れた村人のそばに２人は駆け寄った。全身が傷だらけであった。レスはそれを見てますます顔をこわばらせた。」
透明猫・レス「そこにいるのは分かっている！姿を現せ！」
ソレイユ「随分な挨拶だな。せっかくこっちから出向いてやったのに。」
風船猫・タマ「…っ！！」
ナレーション「月明かりに照らされた女は覆面をしていなかった。素顔のままで、まっすぐにタマだけを見つめている。やはり憎しみの感情しか感じられない。レスはまたタマの前に立とうとしたが、今度はタマがそれを遮った。」
ソレイユ「夜の戦いはこっちには不利だからここで争う気は無い。それに弱いお前を殺すのは簡単だからな。話し合いをしに来ただけだ。」
ナレーション「そういってソレイユは端正な口元に冷笑を浮かべると遺跡の方向を指差してレス達に「ある条件」を出した。」
ソレイユ「３日後の朝。タマ、お前１人であの場所まで来い。来なければ…今回のように１人ずつ犠牲者が増える。一対一の勝負をしないか？お前だってこれ以上犠牲は出したくないだろ？」
風船猫・タマ「（倒れたまま絶命した村人を見つめるタマ）…わかった」
透明猫・レス「！」
ソレイユ「（タマの返答に満足そうに笑う）待ってるからな」
ナレーション「楽しげに笑ったソレイユは背後にいた天馬に飛び乗り天空を飛び去った。天馬の羽がふわふわとタマの前に舞い落ちる。柔らかな羽を掴んで握り締めるとタマはレスを振り返った。」
ソレイユ「（苦しめばいい！私と同じ苦しみを…本当の孤独をお前は知らない！）」
ナレーション「タマは肩を震わせながら犠牲になった村人の顔に布をかけた。そして、ゆっくりと呟いた。」
風船猫・タマ「レス…『パーフェクトトランスフォーム』を僕に教えてくれないか…」
透明猫・レス「タマ…！」
風船猫・タマ「もう、誰かが犠牲になるのは見たくないよ…！」
ナレーション「夜空の大きな月がタマを明るく照らす。その月はまるでネミミの顔のようにタマは見えた。月の顔は２人の行く末を案ずるかのように曇って見えた。」