ナレーション「タマの頭上に倒れた木はそのままタマの姿を隠した。」
効果音「ザワザワザワ…」
ナレーション「倒れた大木の傍で顔に布をまとった猫型宇宙人が立っていた。布から見える目だけが冷たく光っていた。」
ソレイユ「フン…他愛もない…」
ナレーション「低い声で呟きその場を立ち去ろうとしたその時、倒れた木の中からタマの声がした。」
風船猫・タマ「い、イテテテ…」
ソレイユ「？！」
効果音「ガサガサ…」
ナレーション「タマは手に小鳥の巣を抱えながら木の中から出てきた。小鳥のヒナが無事だとわかると安心したようにタマは元気にさえずるヒナに話しかける。」
効果音「ピーピーッ（ヒナの鳴き声）」
風船猫・タマ「木の下敷きにならなくて良かったね。今、巣に戻してあげる。」
ソレイユ「かろうじて避けたのか…？まさか？」
ナレーション「タマは倒れた木の傍から少し離れた場所で、倒れた木に向かって手をかざした。」
風船猫・タマ「シンボルストーンよ、倒れた木を元に戻せ！」
効果音「バリバリバリバリ！」
ナレーション「ビデオを早戻しするように木々は元に戻っていく。それはあっという間の出来事だった。」
ソレイユ「（流石…というべきか。もっともお前がこの程度で死ぬ奴ではないと知ってるが）」
風船猫・タマ「僕は誰とも争いたくないよ。君は誰なの？」
ソレイユ「本当に知らないのか？」
ナレーション「レスはこの時、二人の間にある緊張感がなんなのか判らなかった。近寄れば刃物のように切りかかられそうな強い瞳以外は表情がまるで見えない覆面の女。好意をもった相手ではないのはレスにも判る。」
ソレイユ「…お前に話す必要はない…」
ナレーション「覆面の女は両腕をタマに見せるように前に向けた。両手首には金と銀の腕輪が片方ずつはめられていた。」
ソレイユ「（私の父が目に掛けていたお前の力、見せてもらおうではないか…！）」
ナレーション「いきなり知らない相手から憎しみをぶつけられてもタマにはどうしたらいいかわからない。視線をそらした時、タマの足元に落ちていたものが視界に入る。それは…」
風船猫・タマ「さっきの雛の親鳥？」
ソレイユ「可哀想に…お前は倒れた木を元に戻しても親鳥の命までは元に戻せないようだな。」
ナレーション「倒れた木に巻き込まれて枝が小鳥の胸に突き刺さっていた。さっきタマは上を見上げた時、とっさに小鳥の巣が見えたから助け出す事が出来た。だが、傍で餌を運んでいただろう親鳥の姿を見落としてしまった。小鳥はすでに絶命している。」
ソレイユ「お前のせいで死んだ。ネミミと同じ…だろ？」
透明猫・レス「（怪訝な表情）どうしてそれを知ってる？」
風船猫・タマ「あ…」
ナレーション「タマが言葉にしようと声をだそうとした、がそれは言葉にならずに途切れた。いつだったかネミミがタマに話した記憶が蘇る。」
ネミミ（タマの恩師）「わしには娘がいるんだ。タマ、お前のように頑張り屋で…努力してるんだ。今は洞窟にひとりぼっちだが娘の誕生日には迎えにいくつもりだ。」
風船猫・タマ「…」
ネミミ（タマの恩師）「いつかお前にあわせる日が来るだろう、タマ、その時は娘と仲良くしてくれないか。」
風船猫・タマ「うん、いっぱい遊ぶよ、早く会いたいなぁ…」
ナレーション「娘のことを話すネミミの姿と自分の目の前にいる覆面の女がどうつながるのか、タマにはまだ理解が出来なかった。だが、女が自分のことを相当憎んでいることだけは口調からありありとわかった。」
風船猫・タマ「…君は何をしたいの？」
透明猫・レス「危ない！」
ナレーション「不意に覆面の女から攻撃を仕掛けられたタマはよけられず傍の木に体を叩きつけられる。それでもさらに攻撃を仕掛けようとする女にレスはタマを庇うようにたちふさがった。」
ソレイユ「お前は…仲間か？いいだろう。大勢でつるんでないと居場所がないなら…お前の大切なものを全部排除してやる。」
風船猫・タマ「（苦しそうに息を吐きながら）君は…誰…？」
ソレイユ「…お前のことは。私の父から聞かされていた。」
ナレーション「女の手の中で光が生まれてやがてそれが形あるものに変化していく。それは銀色の剣だった。その剣をレスの前に突き出したがレスは怯まない。」
透明猫・レス「さっきのようにはいかないぞ」
ソレイユ「人殺しを庇う気か？」
風船猫・タマ「僕が…人…殺し…？」
ナレーション「女は自分の覆面に手を取った。まるで自分の顔の皮をはぐ様に引き裂いた。布からは素顔が現れた。」
ソレイユ「私の名はソレイユ・ビント・ネミミ…」
風船猫・タマ「ネミミ…き、君はまさか…」
ソレイユ「…そうだ、お前の師匠だったネミミ…ネミミの娘だ！！」