第3章・第10話「破られた静寂」

間 人志「すごい人だなぁ…」
ナレーション「「Halo」のコンサートの当日。人志はコンサート会場の「シリウス」であずみを待っていた。人志があずみからチケットをもらったことは潔たちには黙っていた。他にチケットを手に入れられなくて残念がってたものもいたからだ。」
石田 潔(人志の友人)「よく手に入ったな、人志、俺達の分も楽しんでこいよ!」
辻本 繁(人志の友人)「ついでにサインも手に入ったら頼むぜ!」
間 人志「ああ…運が良ければな…」
ナレーション「家の近くで典子の話を聞いてから、典子とは話をしていない。エルたちもそれとなく爆破予告のことについて調べていたのだが、手がかりは得られなかったようである。」
間 人志「(それにしても神崎はどうしたんだろう…爆破予告のニュースがあってからなんか様子が変だったなぁ…)」
ナレーション「人志はふと神崎のことを思い出した。彼は普段威張っているような雰囲気であった、だがここ2、3日は様子がおかしい。どこかおどおどしていて誰かが声を掛けても目をあわせようとしない。」

悪魔・ルビ「あいつの父親って大企業のエリートサラリーマンらしいな…」
間 人志「そうなのか?」
ナレーション「どこから情報を聞き出したのだろうか、ルビが人志の傍に腰掛けて話を始めた。エルも周りの人を見回しながらルビの後に続いた。」
天使・エル「すごく厳しい人らしいですね…」
悪魔・ルビ「典型的堅物親父だな…携帯とか今の若い奴が喜びそうなもん、全部目の仇にしてるらしいな」
間 人志「そうなのか…」
ナレーション「ルビたちの言葉に人志は神崎の顔を思い浮かべた。神崎は自分より成績の劣る人志を見下していた。だが、それは強がっていたのではないかと思った。友人達に恵まれている人志のことを羨み、彼は孤独を感じていたのではないのか…」
あずみ「おにいちゃん…!」

ナレーション「向こうから声がしたのでふっと顔を上げるとあずみの姿があった。あずみは今日は私服を着ていた。ぞのあずみの後をついてくるものがいた。」
間 人志「あ…」
天野典子「あら、奇遇ね…」
あずみ「おにいちゃん、天野さんと知り合いなの?」
間 人志「あ、ああ…」
天野典子「お邪魔だったかしら?」
ナレーション「典子は2人の傍からそっと離れようとしたが、人志は慌てて止めた。あずみも一緒に来てほしそうな顔をしている。」
間 人志「他に連れはいないんだろ…?あずみの話も聞かせて欲しいし…」
あずみ「いいでしょう…天野さん?」
天野典子「…」


効果音「ワアアアアア…」
ナレーション「円形劇場『シリウス』は人志の町にある多目的ホールである。中にはいろんな施設があり、地元の人はもちろん、他から来る利用者も少なくない。『Halo』のコンサートはその中のホールで行われる。収容人数は約300人。コンサートに利用するには規模が小さかったが、これは『Halo』メンバーたっての希望だった。」
天野典子「少ない人数でコンサートが出来る場所って意外と少ないのよ。事務所のマネージャーもかなり苦労したみたい。無料にするのも初めから決めていたみたいね。」
間 人志「やけに詳しいね、きみ」
ナレーション「人志は典子の顔をまじまじと見つめていた。そういえば彼女がこんなに活き活きと話をするのは初めて見た。転校してきたばかりのつんけんとした態度からは想像もつかない。」
天野典子「なに?私の顔に何かついているの?」
ナレーション「人志の言葉に典子はそっけない表情で答えた。そばで見ていたあずみも不思議そうに彼女を見ている。」
あずみ「天野さんが笑っているの…初めて見た」
ナレーション「その時、典子の脳裏にある記憶が蘇った。典子が全寮制の学校にいた頃だった。目の前にはその時の親友・志保がいた。」

天野典子「志保ちゃん、どうしたの…何か顔についているの?」
城之内志保(典子の親友)「ううん…びっくりしてたの。典子ちゃんが笑ったの初めて見たから…」
天野典子「え、そうなの?」
ナレーション「典子…テンコは天界にいた時は愛想がないと毎日のように言われていた。確かに人よりは融通が利かないし、自分でもくそがつくほど真面目だと思う。だから、人から見たら怖い顔をしているんだろうと思っていたのだが…」
天野典子「私なんか仏頂面だから、いつも固い顔しているって言われていたから…そんなこと思っても見なかった…」
城之内志保(典子の親友)「…そんなことないよ、典子ちゃん笑ったらかわいいと思うよ…」
天野典子「…」
ナレーション「志保自身、初めてであった時は寂しそうな表情をしていた。気が弱く上級生のいじめの対象になっていたため、本来の優しい性格が隠れてしまい、彼女の顔からだんだん笑顔が消えていったのだ。典子が来てから少しずつだが、笑顔を取り戻す事ができたのだ」
城之内志保(典子の親友)「典子ちゃんのお陰で私は笑うことが出来るようになった…感謝しているわ…」
天野典子「志保ちゃん…」


効果音「ワアアアアア!!」
天野典子「!!」
ナレーション「突然、誰かの絶叫に典子は我に返った。周りを見るとコンサートに訪れた観客が黄色い声を上げていた。彼等の視線の向こうには手を振っている『Halo』のメンバー達がいた。」
小原昇矢「皆、今日は来てくれてありがとう!」
ナレーション「昇矢と他メンバーはアイラインを強調したメイクをしていた。人志達は最前列の真正面の席にいた。『Halo』のメンバーを生で見たのは今回がはじめてである。」
間 人志「(…上手くいえないけど…かっこいい…あいつらがはまるのも分かる気がする…)」
天使・エル「どうですか!やはりライブが一番ですよ!」
間 人志「おわっ!」
ナレーション「人志がエルの声に思わずのけぞってしまった。そして、目の前には『Halo』と同じようなメイクをしたルビが突っ立っていたのだ。」
間 人志「ルビ、いつの間にそんな格好を!」
ナレーション「人志はだんだん笑いがこみ上げてきた。ルビはもともと濃い顔立ちだが、メイクをした顔はまるで歌舞伎役者のようだった。怖いというより滑稽だった。」
間 人志「お、お前…化粧の才能ないな…く、顔の色が首の色と違っている…くくく…」
悪魔・ルビ「寝癖をそのままにして学校に行く、お前には言われたくない!」
効果音「ギャアアアアアーーーーン!!」
ナレーション「耳元をつんざくようなエレキギターの音が聞こえてきた。それと同時にドラムやキーボードの音が調和されていく。潔と繁が『Halo』の演奏は神技だと力説していたが、人志はそれを体で感じていた。」

小原昇矢「空よりも高く 高く 星よりも はるか かなた…」
ナレーション「観客席はしんと静まり返っていた。今、昇矢の声だけが響いている。普段の話し方から想像もつかない程の力強い声だった。人志は放心状態で聞いていた。」
小原昇矢「宇宙(そら)を突き刺して 蒼白い月 暗闇を壊していく…」
ナレーション「あずみはただ前だけを見据えていた。人志が横目で彼女を見たとき、あずみは泣いていた。ハンカチで目頭を押さえるのも忘れるほど、前を見据えていた…。人志は見ない振りをした、だが、そんな彼も流れる涙を抑えることが出来なかった。」
小原昇矢「俺の後ろにそびえたつ Tower...」


ナレーション「昇矢が最後のフレーズを歌い終わった途端、惜しみない拍手が沸きあがった。立ち上がって声を上げるものもいた。人志は周りの声援で我に返った。」
悪魔・ルビ「おい、ひとし、お前泣いているぞ…グスッ」
ナレーション「ルビが人志のことをからかった。だが、そういうルビも涙でアイラインが落ちている。涙と一緒に鼻汁も垂れ、ルビの化粧はだんだん崩れていった。」
間 人志「お、お前、黒い涙流れているぞ…」
悪魔・ルビ「えっ?」
天野典子「間くん…ひどい顔ね…」

ナレーション「人志は一瞬、自分のことを言われたのかと思い、典子のほうを振り向いた。典子は口を押さえて笑いを必死にこらえていた。指はルビを指している。」
天野典子「違うわよ、そっちの悪魔さんよ…う、うふふふ…」
悪魔・ルビ「エル!ちょっと鏡貸せ…う、うわぁっ!!」
ナレーション「ルビは普段の言動から想像もつかないような大げさなリアクションをした。エルまで腹を抱えて笑っている。ルビは鳩が豆鉄砲を食らったような表情をしていた。」
悪魔・ルビ「なんだよ、おめえら!く、くははは…!」
効果音「ズドーーーーーン!!!」
一同「!!」
ナレーション「観客席の背後から爆発音がこだました。黒煙がもうもうと上がり、観客らは逃げ惑っていた。」
間 人志「ま、まさか!!」
ナレーション「舞い上がる煙の中から人影が見えた。それがはっきり見えた瞬間、人志は息を飲んだ。無数の爆弾を身にまとった神崎が目の前で仁王立ちをしていた。」
間 人志「か、神崎?!」


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