第26話「回帰」

効果音「ビシッ、ビシッ、ビシィッ!!」
子猫の感情の起伏に合わせるかのように地面はうなりをあげ、大きな亀裂が走った。子猫の泣き声はだんだんと大きくなり、鼓膜が破れるほどの強さだった。
ゴロ(サンダーの父)「ぐっ!頭が割れそうだ…!」
鬼江「何よ?これ?!大殺界は去年で終わったはずよ!」
十文字(無双)「止めなければ…あの子が危ない…!」
なにも見えない、なにも聞こえない。子猫は頭の中で呪文のように繰り返す。なくした大切な人、そして自分の居場所を思い出すとわけもなく涙が溢れた。
???(白きもの)「…うわぁあああああああああ!!!」

無双は子猫に向かって走り出すと手を差し伸べようとした。大丈夫だと、怖くないと安心させるために。泣き出した弟や妹にしたように不安や恐怖から守ってやろうとした。
十文字(無双)「泣かないで…」
腕の中で震える子猫を抱きしめながら、触れ合った体温は冷たくて。
十文字(無双)「心の痛みはどうやったら消えるのかわかりません…」
???(白きもの)「……(涙を手でこすって無双の顔を見上げる)」
十文字(無双)「だけど1人ぼっちだと消えないのは判ります」
???(白きもの)「……どうして?」
子猫は目に涙を溜めて無双を見つめた。無双はそんな彼を更に強く抱きしめる。
十文字(無双)「君と同じように一人ぼっちだった子がいた…私はその子を救い出してあげることが出来なかった…」
???(白きもの)「……」
十文字(無双)「その人の悩みを完全に知ることは出来ない…せめて私が出来ることは、こうやって抱きしめて辛さを分かち合うことぐらいです…」
そういっている無双の声も掠れて震えていた。子猫は無双のそんな様子を見てしばらく沈黙していたが、やがてこう呟いた。


???(白きもの)「……泣かないで…」
後悔するな、と誰かが頭の中で囁く。前に進めとまた背中を押される。しっかりしなければ、しっかりしなさい、生きろ…それは他の誰でもない無双自身の言葉だった。
十文字(無双)「私には言葉があります。通じ合って共有しあって理解しあえる温かい体温もあります。生きていることを実感できるのは笑顔でいる時、仲間がいる時、…みんな1人じゃない。1人じゃ生きられない。」
1人で生きていくには心が脆いから。どれだけ体を鍛えても心は皆脆い。心の痛みに麻痺してしまえばそれはもう人じゃない。
十文字(無双)「泣きません。貴方も笑ってください…、笑って。」
???(白きもの)「…涙が温かいね」
十文字(無双)「生きているから」
頬に触れた小さな両手を無双は握り返した。強く、それでいて優しく。
???(白きもの)「………」
涙を流しながら子猫は微笑んだ。子猫の中にある感情が生まれていたがそれが何かは言葉では思いつかない。ただ、優しい毛布に包まれて眠るようなささやかな安らいだ気持ちになった。目の前の無双は自分の父親でもなく母親でもない。けれど彼の言葉には子猫の気持ちを動かすだけの強さがあった。
十文字(無双)「もし、辛いことや苦しいことがあったなら、私はあなたの力になりたい…」
???(白きもの)「……本当?」
黙ってうなづく子猫。いつの間にか地震は止まり、静寂が戻っていた。そんな無双の様子をゴロたちは遠くから見ていた。

鬼江「なんだか悔しいわね…」
悔しいのは最初はなにもわかってなかった若造がなにもかも変えてしまったことだと鬼江は舌打ちしていた。誰もできなかった雷流丸の心さえも変えた青年。これではこの先鬼江を越えてしまうかもしれない。鬼江どころかギンさえも。
鬼江「(…本当にわかってなかったのは私だけどね)」
時間をかけても遠回りしたやり方ではなにも変わらないのはわかっていた。突然出てきた新人に期待してはいたがここまでやるとは誰が予想できたか。鬼江と同じ気持ちになっていたのはゴロだった。
ゴロ(サンダーの父)「無双がいなかったらなにもかも終わっていたな」
鬼江「終わってないわよ」
鬼江がそういって走り出すと抱き合ってる子猫と無双を引き剥がす。
鬼江「無双ちゃんは私のものよ!ほらっもう唾つけたんだからね!ペッペッ」
十文字(無双)「鬼江さ…うげぇ」
鬼江「もう売約済みなのよっ子猫ちゃんは別のダーリンを見つけることね」


???(白きもの)「僕は男だよ!化粧濃すぎるよ、おばちゃん!」
鬼江「お、おばちゃん?!ウキーっ!!」
子猫は飛び切りの笑顔で鬼江に憎まれ口を叩いていた。それを見て無双は腹を抱えて笑っていた。
十文字(無双)「はははは…元気になってよかった…ははは…」
鬼江「何よ!無双ちゃんまで!」
鬼江の腕からするりと抜けた無双は子猫と一緒にすごい形相の鬼江に追いかけられていた。ゴロはこの時、無双の亡き父の姿が頭をよぎった。
ゴロ(サンダーの父)「照蔵…お前の息子に助けられたよ…笑顔がお前にそっくりだ」
天国の男に話しかけるとゴロは口をあげていつのまにか笑い出していた。無双の姿に涙が出てくるような嬉しいのか悲しいのかわからない気持ちがこみ上げてくる。紆余曲折しながら出あった青年に見知った顔を重ねると心が安らいだ。
ゴロ(サンダーの父)「------偶然ではなく必然か…」
照蔵。お前は先に逝ってしまったが、大事なことを気づかせてくれた、とゴロは思う。
鬼江「無双ちゃん!そんな無防備に笑わないでよ」
十文字(無双)「はぁ?」
鬼江「無双ちゃんは魔性よね。本当にみんな…惹かれていくんだから。」
十文字(無双)「私は『山椒』は苦手ですが……」
鬼江「天然なところも魅力よ!」
十文字(無双)「うぎゃああああああ!」


???(白きもの)「(笑ったのは久し振りだ)」
子猫は目の前の光景にふんわりと微笑む。彼らがなにを望んでいるのかわかっている。それをかなえる事ができるのは自分だろう。
風船猫・フジ「ーーーーコノ地ヲモトニモドスニハ…ーーーーー」
???(白きもの)「(わかってるよ)」
風船猫・フジ「----姿ヲミラレタ相手ノ記憶ト代償ニ」
???(白きもの)「(この地を救う力を使えば力を使ったものを見た第三者の記憶は飛ぶ。救世主になっても正確な記憶は残らない。その力を使った者自身の記憶も)」
フジが幾度となく力を使っても誰にも正しい名前を呼んで貰えなかったように。だから大勢の友達が出来ても助けるたびに記憶はリセットされて孤独になっていく。幸せにする力は同時に自身を孤独にする力だった。
???(白きもの)「(…残像ぐらいなら残るかもしれないよ。君が赤ん坊を助けた時のように)」
子猫は決意を固めて目を閉じた。両手に力をこめて大地にかざす。
効果音「カアーーーーーーン!!」

風船猫・タマ「…十文字さん……」
洗面所で頭から水をかぶっていた十文字がある声に我に返った。アルバムを見て顔色を変えた彼を心配して、タマが探しに来たのだった。
十文字(無双)「タマさん…どうしてここへ」
風船猫・タマ「皆が心配してたよ…それに、悪いとは思っていたけど『額の傷』のこと、サンダーとギンさんにも聞いたよ…」


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