第25話「さよなら」

傍にいる…そういった白き者の言葉に安堵してフジは再び目を閉じる。
???(白きもの)「…フジ、君は苦しまなくてもいいんだ…」
白き者はフジの頭を優しく撫でてその柔らかな体毛が徐々に抜け落ちているのを知る。フジのやつれた体からは腐敗したかのような臭いもたちこめていた。しかし、その場にいるのも苦しいだろうに白き者は立ち去ろうとはしなかった。
???(白きもの)「フジ…君を気にかけてくれる人を見たよ。君は嫌われてなんかいない。」
子供の頭を抱えるように白き者の細い腕はフジの頭を大事そうに包んだ。ぎゅっと腕に包まれてフジは白き者の言葉に頷く。
風船猫・フジ「…大事ナ物ハ、君ノ居場所ハミツカッタ?」
その質問に白き者はぽろぽろと涙を零して片手で口を覆ったが泣き声は押さえることが出来なかった。」
???(白きもの)「…もう喋らない、で…」
風船猫・フジ「君ハ孤独ニナッテハダメダ…君ハイツデモ笑ッテイルトイイ…」

嗚咽が止まらない白き者に優しく問いかけるフジ。穏やかではあったが滅多に他人には見せないフジの微笑みであった。
???(白きもの)「……まだ探している最中だけど…僕は…見つけられるのかな…」
風船猫・フジ「信ジテイレバ、諦メナケレバ、必ズ見ツカル…僕ト同ジ轍ヲ踏ンデ欲シクナイカラ…」
朽ちていくフジの頭がどんどん風に吹かれて崩れていく。それは白き者の手の中でどんどんと小さくなった。
???(白きもの)「また1人になっちゃった……」
水の管が弾けとび、水しぶきが白き者の頬を濡らすとマフラーだけが残されていた。フジのマフラーだけがそこにフジがいたことを証明している。
???(白きもの)「……あぁ……っあああああああっ!!」

気が狂いそうなほどに自分自身を抱きしめて白き者は叫ぶ。喉を嗄らして、震える手でマフラーを掴みながら。
???(白きもの)「信じるよ、……リルーラ。」
だって君は確かにそこにいたんだから、と言葉にならない思いを白き者は心に告げる。
???(白きもの)「(…君は人を幸せにする代わりに不幸を体に吸い込んでいったんだ。そんな君を誰が責めるの?)」
吸い込んだ不幸はやがて体に蓄積され放出された。いくら体に清浄な水を流して清めようとしても全てが遅すぎた。
???(白きもの)「……忘れやしないよ…忘れるもんか…!」

白き者は空を仰ぎ、力強く呟いた。彼の脳裏には最後のフジの笑顔が焼きついていた。
効果音「ボォッ」
フジの遺骸が跡形もなく消えた時、ほの白い光が白き者の周りに飛んでいた。時間操作など禁忌の魔法を使ったものはシンボルストーンを失い、自分の肉体が消滅する罰が待っていた。フジのシンボルストーンも淡い光をわずかに残して、消えていった。


十文字(無双)「鬼江さん、これを撒いてください。」
その頃、無双達は新しい墓を作ろうとしていた。すぐにはできないが場所は無双の中では決定していた。そんな無双の様子を見ていた鬼江に手渡した小さな布袋。
鬼江「何よ?」
十文字(無双)「フジの花に代わる新しい花です。妹に頼んで持ってきてもらいました。このあたり周辺に撒いてください。」
布袋には花の種がびっしりと入っていた。鬼江は布袋の中身を覗きながら納得したように微笑むと遺跡周辺に花の種をまき始める。咲きなさいよ〜と応援するように鬼江が撒いているとゴロも鬼江から種を分けてもらい撒き始めた。
ゴロ(サンダーの父)「元気よく咲いてくれたらいい、命を咲かせろ!」
鬼江「私と無双ちゃんの恋の花よ咲け!」
十文字(無双)「お、お、鬼江さん」
鬼江「やだぁ、冗談よ。無双ちゃんはすぐに赤くなるんだから可愛いわ。」
ゴロ(サンダーの父)「(今のは青くなった気がするが……)」

鬼江の言葉にわざと大きな咳払いをし、無双は水をまくためのじょうろを探し始めた。たまたまその辺に捨てられたじょうろに水を入れる。
十文字(無双)「子供の頃、親父がよく言っていたっけ…真心をこめて育てれば植物もそれに応えてくれると…」
効果音「ザアアアア…」
水を入れている間、無双は誰かの視線を感じていた。他の粗大ゴミの山の陰に白いものがちらちらと動いて見える。
???(白きもの)「……」

十文字(無双)「怖がらなくてもいいですよ……」
白いものが見える場所に視線を移した無双は優しく問いかける。それでも無双らを警戒しているのか、なかなか顔を出そうとはしない。鬼江とゴロも訝しげにその様子を見ていた。
ゴロ(サンダーの父)「(懐から塩を出す)…敵か?」
一歩踏み出すゴロの足。踏みとどまるように無双が止めた時、地面が小刻みに揺れ始めた。
十文字(無双)「これは?」
鬼江「いやぁあああ〜ん!無双ちゃん、鬼江怖い〜〜〜!!」
口調は女だが固い胸板は女のそれとは違う。締め付けられてぐぇっと蛙の声が無双からこぼれる。
鬼江「地震よ〜きっと震度7!!」
十文字(無双)「おおおお、お、ちつ……いて…」
鬼江「地震・カミナリ・ギンちゃんのおならは私にとって3大恐怖なのよ!あ〜怖い!!」
十文字(無双)「怖がらなくても、…うげぇ…い、い。ですよ……」
このままでは鬼江に絞め殺されかねない。鬼江の抱擁からやっと逃れるように、無双は白いものの元へ倒れるように近づいた。その瞬間、あれだけ揺れていた地面が嘘のように鎮まった。
ゴロ(サンダーの父)「…止まった?」
無双の目の前には白い子猫が震えていた。彼は姿勢を低くして、子猫に優しく話しかける。


十文字(無双)「あなたは風船猫ですね?フジを知っていますか?」
???(白きもの)「(無言で頷く)」
十文字(無双)「私たちは風船猫・フジの力を借りたいのですが彼に会わせてくれますか?」
???(白きもの)「……できないよ」
無双の言葉に子猫の顔が辛そうにゆがんだ。彼とは視線を合わそうとしないで、じっと地面を見つめていた。何度もつっかえながらようやく切り出した。
???(白きもの)「もう、ここにはいない…フジは逝ってしまった…遠いところへ…」
一同「…!」
???(白きもの)「彼の最期を看取ったのは僕だけだった…すごく疲れていた…」

十文字(無双)「どうして…」
???(白きもの)「どうして?それは…それは、みんなを助けたからだよ」
十文字(無双)「フジが助けた?」
断片的な言葉では全体が把握できない。無双は少ない情報をかき集めようとしてさらに白きものに質問をした。」
十文字(無双)「教えてください。フジは何故毒花を咲かせてこの町の人々を苦しめたんですか。あなたは助けたといったが、私にはフジの行動が理解できない。それに……」
???(白きもの)「理解?…なにもわかってないくせに」
言葉を続けようとした無双を厳しい声で跳ね返す。また地面が揺れ始めた。
???(白きもの)「みんな僕を置いていく…やだよう…怖いっ怖いよ!!!」
小さな体が震えている。白い手に握り締めたマフラーが血で汚れ、ぼろぼろになっていた。


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