最終話「忘れがたきもの」

十文字(無双)「…そうですか。」
それ以上言葉が続かない。これまで封じ込めていた記憶が一気に流れ出し溢れていくのに肝心な何かが抜けていた。無双の中に、そしてあの時あの場所にいた全員に。
十文字(無双)「(額の傷が辛いのではなく……なにか大事な部分が)」
風船猫・タマ「どうかした?」
十文字(無双)「いえ…悪くはないです。隠すつもりはなかったし、話す機会もなかったので気にしないで下さい。」
わざわざ額の傷を---『宣伝する』のもおかしい。十文字---無双自身この額の傷は失った者への証、過去の恐怖、悲しみ。それがすべて。

十文字(無双)「…タマさんを見ていると、昔どこかであった人を思い出します。」
風船猫・タマ「…いきなり何?」
唐突な十文字のらしくない言葉にタマは動揺している。彼もおかしいと感じていたが口から自然に出た言葉だった。どこで出会ったのかは定かではない。
十文字(無双)「……忘れてください。さぁ戻りましょう。」

十文字とタマはギンたちのいる部屋に戻っていった。ふすまの傍まで近づいた時、背後に妙な気配を感じていた。
謎の声(男)「あら?」
十文字(無双)「……」
風船猫・タマ「どうしたの?十文字さん」
十文字の頭に野太い声が被さる。何か嫌な予感がする。タマの方を見ないで十文字は彼の手を引っ張った。
十文字(無双)「は、早く入りましょう!」
風船猫・タマ「ど、どうしたの…?あ、あーっ!!」
タマの悲鳴に慌てて振り向くと、タマは大男に首の後ろを掴まれ、ぶら下がっていた。厚化粧の割れた顎の男の顔を見た瞬間、絹を裂くような悲鳴が十文字の口から発せられた。
十文字(無双)「で、でたーーーーーっ!」


大げさに驚いてみせる十文字にむっと口を曲げて怒る巨体は女性でも男性でもなく。
鬼江「失礼なナレーションね!私は女よ!」
…心は乙女の鬼江が数年前と変わらぬ姿で十文字の前に現れたのだった。
鬼江「外見も乙女だけど、まぁいいわ。ひさしぶりねぇ無双ちゃん。」
十文字(無双)「その呼び名も久し振りに言われましたよ。」
鬼江「よく手紙には書いたじゃない。あちこち飛び回ってるうちに無双ちゃんがこんなにいい男になるなんてね。また惚れそうよ。」
風船猫・タマ「誰?」
十文字(無双)「この人は昔ここでお世話になった…」
鬼江「無双ちゃんの初恋の相手とでもいっていきましょうか。初めまして、ラブリー鬼江よ。」
タマは何故か鬼江に対して苦手意識があった。あまり関わりたくないと思っていたが、不覚にも鬼江の顔を見て吹き出してしまった。

風船猫・タマ「ブッ」
鬼江「…何がおかしいの?」
風船猫・タマ「何、その睫…毛虫でもくっつけているかと思ったよ…」
タマは心の中では脂汗と冷や汗を大量に流していた。だが、お世辞が言えない彼の口からは奇妙奇天烈な言葉しか出てこない。あまりにもその言葉がつぼだったのか、十文字が笑いをこらえている。その傍で鬼江が般若のような表情になっていた。
鬼江「あんたら血の雨ふらすわよ〜〜!」
ぎゃあと叫ぶ2人が走り出す。その後を追いかける鬼江。
ギン(十文字の元上司)「…な、なんだ?」
向こうが騒がしいので様子を見に行こうとしたギンが、ふすまを開けた。そこから血相を変えて2人を追いかける鬼江が目に飛び込んできた。


鬼江「おんどりゃあ、しばいたろうか!」
ギンは慌ててふすまを閉めて見なかったことにしようとしたがとき既に遅し。
鬼江「あらぁ〜ギンちゃん!」
閉めようとしたふすまの隙間に鬼江の太い指が強引に割りこんでこじ開ける。ギンも力をこめたつもりだったが鬼江の力には敵わなかった。
鬼江「ギンちゃんにもお土産買ってきたのよ。ほら、ボクサーパンツ。」
可愛いピンクの紙ラッピングにはクマ模様の赤いリボンが巻きつけられている。何処に行ってきてパンツをお土産に買ってくる奴がいるのか、はたしてここにいた。
鬼江「ギンちゃんも今時ふんどしよりもこっちのほうがいいと思ってね。でも重いお土産背負って帰ってきたら無双ちゃんったら失礼な子といちゃついてるじゃない?あの子誰よ。」
早口で喋りながら鬼江は背負ったリュックを床に置いた。リュックを開けながら鬼江は久々の再会を喜ぶ。
ギン(十文字の元上司)「あれはだな、まだ思春期を通り越してないからな。思ったことをそのままいうだけなんだ。悪気があっていうわけじゃない。…大体想像できるけどな。」
鬼江「…そう、ギンちゃんは相変わらず子守りしてるのね。変わんないわねっていいたい所だけど皺増えたんじゃない?」
ギン(十文字の元上司)「皺は『経験』という名の男の勲章だ…厚化粧して隠すだけのものじゃない。あいつも年数を重ねれば深みを増すだろう」


ギンは鬼江のお土産のラッピングを徐に開いた。ギンの感覚を超越した柄のパンツが目の前にあった。そのパンツを目にしたタマたちがいつの間にか群がっていた。
雷猫・サンダー「相変わらずのセンスだな…鬼江。俺なら絶対はかんぞ、股間にマムシのプリントだぜ!」
炎猫・フレイヤ「ギンさんはともかく、十文字さんは絶対に嫌がりますね」
透明猫・レス「赤の下着は体にいいらしいぞ…冷え性のケインにはもってこいではないか」
雪猫・ケイン「俺は雪猫だが、冷え性ではない…」
気がつけば、若い者同士でパンツ談義に花を咲かせている。その傍で十文字とタマは渋そうな顔で佇んでいる。2人は鬼江の目を気にしながらこっそりと呟いた
風船猫・タマ「…あんなパンツはくぐらいなら全身ボディペインティングされたほうがましだよ」
十文字(無双)「同感です…今日はなんだか妙に意見が合いますね」
ピカリ(サンダーの母)「なんの騒ぎ…あらっ」

騒がしいのが気になって様子を見に来たピカリはギンのパンツを見て頬を赤らめた。
ギン(十文字の上司)「ブッ…あ、あのこれは」
鬼江「奥さんにもお土産買ってきたのよ〜はいっ」
こちらは金のラメ入りリボンに七色の包装紙のお土産だった。突然に手渡されたピカリは戸惑いながらもリボンを解いていく。
十文字(無双)「(まさか下着じゃないでしょうね…)」
ピカリ(サンダーの母)「…可愛いわね」
ラッピングに包まれていたのは写真立てだった。花模様のガラス細工には昔撮った写真が入っている。雷組が全員で撮った写真で、色あせていたが全員が満面の笑みで集まっていた。
鬼江「蔡ちゃんも写ってる写真。どっかになくしたと思ってたけど、古い上着から出てきたから写真たて買って入れたのよ。…あの子の写真はこれだけだったから。」
十文字(無双)「…鬼江さん、その写真を渡すためにわざわざ…?」
食い入るようにその写真を見つめる十文字。ギンやサンダーは勿論、レスたちも集まっている。その中でタマの表情が微妙に変わったのに十文字は気づいた。
十文字(無双)「どうしたんですか?タマさん」
風船猫・タマ「……何でもない…」


鬼江「なによ〜はっきりいいなさいよ」
風船猫・タマ「…今更過去なんて……」
ポツリと呟いた言葉は独り言のようだった。タマはそのまま踵を返すと部屋から飛び出していく。その後を十文字はわけもわからず追いかけていった。
鬼江「なにか悪いこといった?ふんっ」
皆の冷ややかな視線を受けて鬼江は気まずさに視線をさけるようにむくれる。ギンはそんな鬼江を叱るわけでもなく、もう一度写真をよく見た。
効果音「ダダダダダダッ…」
古びた廊下にタマの足音、その後、十文字の足音が追いかけるように聞こえた。ギンのいる部屋から外の門まではこの廊下を通り抜けなければならない。そんな足音を聞いた従業員たちが何事かと顔を出して見ている中でタマはいたたまれなくなりますます早足になってしまう。
十文字(無双)「待ってください!」
わからないから理由が聞きたい。淋しそうな目で置いていかれたような目で立ち去るタマをほうってはおけない。十文字は細いタマの腕を背後から掴んだ。
風船猫・タマ「痛っ!」

あまりにも強引に引っ張られ、タマは戸惑っていた。タマの困惑を他所に十文字は彼の言葉を待たず、こう切り出した。
十文字(無双)「あなたに見せたいものがあります…ついてきてください!」
風船猫・タマ「え、何なの一体?ねえ?!」
十文字に引きずられるまま、タマは玄関へと消えていった。そんな2人をギンたちは興味津々の様子で見ていた…一方、鬼江は赤い顔で激昂していた
鬼江「何なのよ!…あんなにマジになっちゃって!」
ギン(十文字の元上司)「…十文字。もしや…」
透明猫・レス「心当たりがあるのか?」
ギン(十文字の元上司)「ちょっとな…では、わしらも尾行することにしよう」


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